「華を織る」 06 ◆◆◆◆◆ 「‥‥麻乃」 旅商人から託された織子の絵を共に眺めてから数日後の夕刻。自室へ帰って来たばかりの麻乃の許へ、桜木がふらりと姿を現した。 昨夜遅くから降り続いていた雨は漸く止んだが、まだ空は暗く室内は夜の様に闇が立ち込めている。 「おや桜木、どうしました?あの絵をまた見に来ましたか」 幼馴染の相変わらずの窓からの訪問に、灯りを手にした麻乃が近寄って来た。そのまま窓の外を見透かす様に眺める。「――ああ、止んだようですね」 「うん、さっきね。お蔭でここまで濡れずに来れたよ」 言われてみると、確かに桜木の衣服には濡れた後は見当たらない。傘も持たずに来ていると言う事は、彼が宿舎を出た時には既に止んでいたのだろう。 「それで桜木、あの絵を宿舎でゆっくり見たいのでしたら、持ち帰って頂いても構いませんよ?」 「‥‥やはり気になって、来たんだ」 「ですから、お持ち頂いても」 「麻乃」 改まって名を呼ばれた麻乃は不思議そうに顔を上げ‥‥そして、心の中で身構える。‥‥まさか。 「あの新聞は、何なんだ?」 「、」 す、と麻乃が息を飲み込んだ。 そのあまりにも分かり易過ぎる麻乃の反応に、桜木はつられた様に小さく苦笑する。 「お前の顔に出易い所、昔から変わっていないな」 「‥‥読んだのですか、あの記事を」 「悪いとは思ったんだが」 あまりに麻乃の様子がおかしくて、つい。 苦笑から一転し、済まなさそうに頭を下げる桜木に、麻乃も慌てて首を横に振る。 「いえ、私も無造作に置いてしまっていたので」 「いや、本当にすまなかった」 [*前][次#] [戻る] |