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君を想うトキ


 確かに俺はどうしようもない男だ。

 遅刻は当たり前。
 早弁だって当たり前。
 授業は居眠りで過ごすし。
 頭も悪い。
 夜遊びだってするし。
 酒も飲む。

 だけど。
 こんな仕打ちないぜ?

 好きで、好きで、やっと手に入れたあいつが遠くに行ってしまう。離れて行く。

 いつも一緒に居たのにもう居られない。

 もうあいつの顔も見れない。声も聞けない。触れる事も出来ない。


「ハルト離れたら私達は終わり?」


 あいつは涙を溜めてそう言った。馬鹿言え、終わりになんか出来るか。

 出来るわけない。そんなの当たり前だ。
 だって俺はずっとずっとお前を想ってきたんだから。







 あいつは真面目で優等生。
 遅刻なんかしないし、早弁もしない。

 あいつが居なくなって。
 俺は早起きするようになった。だから朝食もきちんと食べるから早弁の必要もない。

 居眠りもしない。授業も真面目に聞く。似合わないとクラスの奴らに言われようとも。俺は己の意思を貫く。


 こんなに真面目にしたって、サチが戻ってくるわけないのに。
 今更真面目にしたところでもう遅いのに。
 あいつは真面目で優等生。
 だから心配かけたくないんだ。遠い所に居るあいつに俺の心配させたくない。


 放課後から夜はずっとバイト。いつも通っていたカラオケ屋の接客や掃除。
 夜遊びはもうしてない。あの生活を惜しいとも感じていない。

 あいつに会う為に、すぐにでも会う為に俺が出来る事はこれしかない。


 あいつの声が聞きたくて。
 だけどあいつは真面目で優等生。

 何時にかけたらあいつの迷惑にならないか。何時だったら長く話が出来るか。

 色々考えて、この時間ならいいだろう。そう思って電話をする。
 だけどいつも話し中。離れて一ヶ月あいつの声を聞いていない。



「あー、会いてぇなぁ」




 サチに会いたい。

 メールだって出来るけど、文字だけじゃつまらない。どうせ電話が繋がっても声を聞くだけじゃもの足りない。


 黒い髪、細い手足、大きな瞳。全てが目に焼き付いている。

 サチの笑顔が見たい時。あいつの笑顔を思い出す。

 俺がこうやってあいつの笑顔を思い出している今。

 あいつは、今何をしているんだろう。それを考える。



「もう駄目だ。もう――」



 何をしているか考える。それがもどかしい。

 笑顔を思い出す。もう思い浮かべるだけじゃいやだ。




 だから俺は会いに来た。








「これは神様のプレゼントじゃないの?」

 可笑しな事を言うサチを笑いながら抱きしめる。

「本物なの? 本物のハルトなの?」

 サチは俺にしがみ着き、俺の顔を覗き込む。

「自然消滅じゃないの? 新しい彼女が出来たんじゃないの?」

 何が自然消滅だ。そんな事させるか。
 新しい女? お前が居るのに出来るわけがない。

「もうやだよ…ハルト。離れてるのは辛いよ」

 俺は弱音をはくサチに言ってやった。

 めいイッパイの愛情を込めて。

「馬鹿だなサチ。俺はお前と離れてからずっと。前よりもずっとお前の事を考えてるよ。離れてるからこそメチャクチャお前を想っているよ」








 そう離れてるからこそ。

 それが。

 君を想うとき。


 離れてる距離に値する。

 君を想うとき。
















 あとから分かった話。

 俺がかけても話し中。
 あいつがかけても話し中。

 何故か。

 相手を想うトキが重なって。

 かけた時間が一緒だったから。



 end...

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