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アナタのヒトミ




 あの目が私を見つめる。

 真っ直ぐで、強くて。

 真っ黒なその瞳。



 いつしかその瞳が。
 怖くて仕方なくなった。



 見ないで、見つめないで。

 何もかもを見透しそうな。

 そんな鋭い目で。


 お願いだから私を見ないで。




 ■ アナタのヒトミ






 最初はただ、好きだった。

 貴方の瞳。

 純粋で、綺麗で、輝いて。

 そんな目で見るから私。

 くすぐったくて、恥ずかしくて。

 だけど嬉しくて。

「先輩の事ずっと見てたんだよ」

 って言ってくれて。

「僕と付き合ってくれない?」

 って言ってくれて。

 素直に頷いた。



 それなのに。



 貴方とずっと一緒に居るうちに。

 私はどんどんその目が、貴方が。

 疎ましくなった。

 完全に支配されていくような気がして。

 身動きが取れなくなっていた。

 目を見たくなくなって。

 姿も見たくなくなって。




 だから別れを告げたの。




 貴方は何も言わなかった。

 いつものように、あの瞳で。

 私を見つめて。

「ありがとう」

 その言葉を残して去って行った。





 一人になって感じたのは。

 解放感と喪失感。

 もうあの瞳は私を映さない。

 もうあの目は私を見つめない。

 気持ちは軽くなり、やがて重くなる。



 身勝手な私の瞳は。

 貴方を追う。

 見て欲しくて、見て欲しくて。

 貴方を追う。

 だけど貴方は私を見てはくれない。





「シュンくんさ目綺麗だよね」

「そうかなぁ」

「うん、綺麗。あたし好きだな」

 ある日聞いてしまった。

 貴方とあの子の会話。

「ねぇこっち見てよ。あたしを見て。もっとよく見せて」

「いいよ」


 今貴方が見つめている。

 その子は貴方の何なの?

 私を見るようにあの子を見つめ。

 フワリと笑いかける。

 二人で意味深に微笑み合う。

 もうあの瞳は。

 私じゃなくてあの子を見る。




 失って気付いた。

 どんなに疎ましく思っても。

 怖くてなっても。

 嫌いじゃなかった貴方の瞳。

 だから誰にも取られたくない。

 いつまでも同じように私を見て欲しい。

 分かっている。

 これはただのワガママ。

 欲張りで、自分勝手な。

 私のワガママ。




「先輩、ねぇサクラ先輩」

「いやっ」

「シュンと別れてフリーなんですよね? 俺と今から遊びに行きませんか?」

「いやって言ってるでしょ!」


 貴方と別れてからずっと。

 私はこの人に付きまとわれて。

 軽くて、乱暴なこの人に。

 いつもはうまく逃げていたけど。

 今日はここには誰も居ない。

 人があまり来ない校舎裏で。

 私は無理矢理腕を掴まれる。


「俺先輩が好きなんですよ」


 ギラギラとした充血した目で。

 私を見やるこの男。


「あんたの目嫌いよ」


 シュン。

 貴方の瞳はこんなのじゃなかった。

 全てを包みこむ強い目。

 ただただ愛が込められてた。

 ごめんね。

 逃げ出して。

 私もっと大人になるから。

 貴方を全て受け止められるように。

 胸を張って。

 貴方の目を見つめ返せるように。





「シュン!」



 私は無我夢中で貴方の名前を口にした。

 シュン、シュンと何度も。



「はっ?! 今更元カレの名前を呼んでどうするんですか?あいつが来るわけ…」

「――――来るわけ、なに?」



 来るわけない。

 こんなところに来るわけない。

 だって貴方が見ているのはもう。

 私じゃなくて、あの子。










「先輩の事泣かさないでくれない?」











「お前?! シュン?」

「いいから、どっか行って」



 そんなはずないよ。

 そんなはずない。

 何で貴方がここに居るの?


 力が抜けて動けない私に。

 手を差しのべたりして。

 柔らかな笑顔で私を見つめたりして。


「先輩、大丈夫? あいつに変な事されなかった?」


 貴方は今、私を見てる。

 私が黙って頷いて。

 大丈夫だって分かった途端。

 安心したような顔をして。

 黒い瞳で私を見てる。




「何で……居るの? あの子は?」

「あの子って?」

「貴方が見ている女の子」

「先輩の事?」

「違う。今日一緒にいた、」

「僕は今も昔も、先輩以外目に入らないですよ?」


“あなたしか、みていません”




 貴方の瞳は。

 愛に溢れ。

 汚い部分なんて持ち合わせていない。

 ただ純粋に。

 ただ私を見つめる。


 貴方の瞳は。

 愛に溢れ。

 苦しみを感じる事なく。

 拒まれてもなお。

 私を見つめる。





「先輩僕の名前を呼んだでしょ?」

「呼んだよ」

「何で? どうして?」


 私は貴方の胸の中で。

 目を瞑りながら。

 静かに告げる。




「貴方が好きだから」

「………え?」




 目を開けて。

 見つめる先には。

 真っ赤になった顔と。

 嬉しそうな。



 アナタのヒトミ。




 end...

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あきゅろす。
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