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四つのイドラ

 血が欲しい。他の誰でもない、彼女のそれが。あの白い肌に刃でなく己の牙を突き立てて貪るように、血、を。

「斎、籐さん……っ」

 囁くように囀ずるように、千鶴が呼んだ自分の名前に目眩がした。即効性の毒薬のように、それは耳に入り鼓膜を震わせ脳を侵した。理性が崩れる音を、体内で聞こえたような気がした。

「……っ」
「痛……かったか?」
「平気です。……大丈夫ですから……」

 すまない、と心の中で呟いても、俺にはこの行為を止められない。ともすればその肌に深く深く犬歯を埋めたくなるなどと、そこから溢れ出す血を際限なく飲み尽くしたいなどと、どんな思いで言えようか。息を詰める千鶴が確かに愛しいはずなのに、どうして俺はこの手で彼女を傷付けるのか。
 千鶴の柔肌から唇を離す。気色悪かろうと思い、触れていた部分を袖で拭いた。ここまでは、良いのだ。いつもいつも、本当に辛いのはここからで。

「斎籐さん……お身体は?」
「……ああ。楽になった」

 少し離れて、顔を見合わせ。俺の髪が元の色に戻ったのを見届けてから、千鶴は笑った。いつも、そうだ。自らの負担などには目もくれず、いつもいつも人の心配ばかりする。総司だったら被虐趣味でもあるのかと言うだろう。
 千鶴は俺を責めない。代わりに、俺がこうなったのは自分の所為だと背負い込む。だから、余計に不安になるのだ。もしもこの笑顔が、俺への罪悪感や憐憫で出来ているのだとしたら……と。
 そうしたら俺のこの愛しさは、一体何処へ行くのだろうか。

「……すまない」
「いいえ。私がしたくてしたことですから……」

 ふわりと柔らかく微笑む千鶴を緩く抱き締め、それでも、と俺は思うのだ。たとえそうだとしても、この場所を手放すつもりはない、と。


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吸血中さいちづ
ぐだぐだ無駄なこと考えてるといい





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