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まずは背骨から

「ほら、銀。こぼしてる」
「……あー」
「あー、じゃないわよ。台拭き取って」
「自分で出来るって」
「あら、そう? じゃあお味噌汁机にぶちまけたりしないでね」

 俺は子供か。口煩い姉貴に少々辟易しながら、机に少しだけこぼした茶を拭いた。声に出さないのは、ついこの間味噌汁をこぼしたという事実があるから、だったりする。

「いい加減、嫁にでも行かねェのかよ?」

 五つ歳上の光希は、身内の欲目というわけではないがそこそこ美人だ。だから俺がこんなにでっかくなる前も、それなりの人数から告白(中には求婚と呼べるようなものも)されてきた。けれどそれに頷いた試しは、ない。一切ない。弟である俺が訝しい目を向けるほどに。

「…………はぁ」
「……何だよその意味ありげな溜め息は」

 む、と口をつぐみながら台拭きを畳み、それを返すついでに焼き魚の皿を突き出した。骨を取り除いてもらうためだ。いつまで経っても、俺はこの作業が苦手だから。自分の弱点判ってこその、カッコいい大人だと思うわけよ銀さんは。
 光希は今一度大きな溜め息をついてから、その皿を受け取ってくれた。

「……どうせなら、魚の骨ぐらい一人で取り除けるようになってから言いなさい」

 手の掛かる弟が居る内は、安心して嫁げやしない。そう言って縁談を断っているのを知っていたから、思わず苦笑するしかなかった。
 焼き魚の尻尾を摘まんで箸で背骨の周りを押さえる。そのままゆっくり大きな骨を取り除いた光希を、その手をじっと見つめながら、ほくそ笑んだ。

「……なぁにその含み笑いは」
「いやいや、なーんにも?」

 それじゃ、精々手の掛かる弟でいますかね。誰よりも大事な姉上殿が、誰かに取られちまわないように。
 心中だけで呟いた言葉は、当然ながら光希には聞こえなかった。


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しすこん、なのかなこれは
実は血が繋がってないとかだと嬉しい←何の希望^^^^





あきゅろす。
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