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彼の愛≒犯罪

「ドタチンドタチン」
「……ああ? どうした狩沢」
「なんか今日、ゆまっち機嫌良くない?」
「……あー。言われてみりゃあそうだな。遊馬崎、なんかあったのか?」

 3mほど前をスキップで先導する遊馬崎に問いかける。欲しい本がある、古本でも良い、と言ったらわざわざ率先して案内してくれた。ハードカバーの専門書なんだが……そんな本の在処まで知っているのだから驚きだ。その情熱と記憶力をもっと有効利用してもらいたいところだが。

「いや、大したことないッスよ」
「なになにー? 逃したコンサートのチケット取れたとか、限定版店舗別でフルコンプしたとか?」
「フルコンプはファンとして当然ッス」
「だよねー」
「……じゃあ何だ」

 収拾がつかなくなるので今一度問いかける。ポケットに両手を突っ込んだままくるりと振り返った遊馬崎は、この上なく楽しそうに笑いながら、実は、と話し出した。

「今朝方、光希の家に行ったんスよ」
「光希……っつーと、敷島か? 何でまた」
「そんで、着替え全部入れ替えたッス」
「あ。だから昨日、衣装貸してって言ったのかぁ」
「……貸したのか、狩沢?」
「もち」

 敷島も気の毒に……、っつーか、待て、不法侵入の上に窃盗罪なんじゃないかそれ。

「メイド服とスク水と魔女っ子は外せないよね」
「光希が何を着てくるか楽しみで。思わずスキップしちゃったみたいッス」
「このリア充めー」

 とか何とか言っていたら。……いや、言っておくが俺は会話に混ざってはいないが。

「あ……、あーっ! ちょっ、そこの……ウォーカーさん! 待ってください、止まってて!」

 右側、赤信号の横断歩道の向こう側から叫び声が聞こえた。あの声は敷島に違いない。右を向けば、群衆に埋もれた敷島の頭だけが見えた。にたり。それを見て、遊馬崎が笑う。敷島が関わると一気に危険になる奴だから仕方ない。

「かっ……門田さぁーんっ! 掴まえててください!!」
「……だとよ、遊馬崎」
「いやッスねぇ……逃げませんよ」
「だろうな」

 敷島が来るのを心待ちにしていたのだから、逃げるなんてことは有り得ない。それどころか喜んで迎えに行くだろう。横断歩道の先で信号に苛つく敷島について語る遊馬崎は、本当に楽しみでしょうがないと言いたげな顔をしていた。
 そうこうしている内に、信号が変わる。先陣を切って走ってきた敷島は、その勢いのまま遊馬崎にタックルをかまして胸倉を掴み上げた。
 ちなみに服装は、ビックリするほど体にフィットした燕尾服だった。……何でサイズがピッタリなのかは考えないでおく。

「うぉーかーさああーん?」
「来たッスね、My sweet honey!!」
「無駄に発音いいんですけど!?」
「ああ……でもそれにしたんスか……。なんか誰かと被る気がするッスね……」

 多分某バーテン服と、だろう。さっき列挙されたもの(あいつらからすると王道)よりはマシだったので敷島は選んだのだろうが。……遊馬崎の反応からすると、よっぽど奥の方にしまい込んでいたに違いない。

「……敷島、お前」
「ななな何も言わないでください門田さぁん! 判ってますよっ、判ってますよぉ!! あたしがこんなもの着ても似合わないって!」

 いや、似合わないわけじゃない。というかかなり似合うと思うが。

「テラカワユスッスよ光希!」
「ウォーカーさんは普段からそれ言うじゃないですか!」
「光希が可愛いからッス」
「っ……う、ううー……」
「うーうー? うみねこだね」
「まさかそっち方面で来るとは……光希は何やっても可愛いからいいんスけど」

 ぷるぷると肩を震わせた敷島が、遊馬崎の襟元を離して拳を握った。殴るのか、と思いきや、その拳すらも震わせて、羞恥に涙を浮かべながら。

「……ウォーカーさんのばかーっ!」

 小学生のような捨て台詞を吐いて、俺たちが来た方向に、逃げる。
 うわーん、訴えてやるー、と言いながら(かつ泣きながら)走り去る背中を見つめて、遊馬崎は笑った。

 酷く、極悪に。

「……おい遊馬崎」
「ちょっと行ってくるッスねー」
「ゆまっちいてらー」
「……程々に、な」
「了解ッス」

 その後、敷島がどうなったのか。それを考えるだけの脳ミソの容量は、俺には残っていなかった。

「本、どうすっかな……」

 ……また今度で良いか。



(ウォーカーさんのばかっ! ウォーカーさんのばかぁ!)(そんな馬鹿にあんなことやそんなことされて喜んでたのは)(わーっわーっ!! ごめんなさい大好きですっ!)


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ゆまっち好きだよー!
でも動かしにくいよー!
あんなことやそんなことはご想像にお任せします←ぇ





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