Title-story
6.X+Y=1
女性は遺伝子にXXを、男性はXYの染色体を持つという。
人類が生まれた最古の昔、アダムとイヴが地上に降り立った時から、XとYは一対だった。
それはまるで磁場のように引かれ合い、それ以外とは決して結ばれず、一対はやがて新しい結晶を生んで連鎖を織り成す。
右羽と左羽、XとYでしか残せない、一つの真理、一つの愛のカタチ。
ならばこそ、同じ羽を持つ自分たちは、一体何者なのだろうと問う。
真理も結晶も連鎖も生まれない、歪でおかしな関係。
彼に何一つ残してあげられない自分は、何故ここにいて、幸せをのうのうと享受して生きていられる。
止める事のできない想いを、どうすれば過ちだと気付ける。
「起きたのかい?」
低く甘い声を耳が拾い、意識が浮上する。
寝台の傍にある大きな窓から差し込む日差しが、朝の来訪を知らせていた。
僅かばかりまだ重い瞼を持ち上げれば、プラチナブロンドの見事な輝きを持つ髪と微笑みが目に入る。
アメジストの瞳が、優しく細められた。
「おはよう、スザク。」
「…おはようございます、シュナイゼル様。」
寝起きだからか、普段なら決して乱れない髪が少しばかりもつれている。
いつも覆われて見えない鎖骨や胸元も、完璧に近い彼をやはり人なのだという事を認識させてくれる。こんな彼の姿を、自分はあと何度見ることが赦されるのかと不安になる。
その不安を打ち消し、いつかそんな時が来ても微笑みと心からの祝福で、本来の関係に戻れるよう、決意と半ば祈りを込めて笑う。
笑ったスザクに、シュナイゼルが微笑みを深くして上体を起こす。
視線で動きを追っていると、長く整った男性的な指で目元を触れられる。
片肘を突いて見下ろしてくる彼が、困ったような笑みに表情を変えた。
「……悲しい夢でも、見ていたのかい?」
「悲しい…?」
指摘されて初めて気づいた。
眦から頬にかけて、幾筋もの涙の痕が残っている。
自身の指で確かめようとするが、頬に触れる寸前で手首を掴まれ、動きを制される。
逆らう事などできず、されるがままに従い、手から力を抜く。
抵抗しない事に満足したのか、シュナイゼルはスザクの手をシーツの上において涙の痕を彼の指先で拭い取った。
「悲しい夢か、それとも嫌な夢か、怖い夢か……。」
独り言のように呟きながら、今度はチョコレート色の癖毛を梳き始める。
気紛れにも見えるその行動に、もうすっかり慣れてしまった。
此方の様子を窺う色を紫苑の瞳が未だ湛えているのを悟って、スザクはつい先ほど見ていただろう夢に思いを馳せる。
肝心な夢は、まるで霧がかったように靄で思い出せなかったけれど。
悲しいとも怖いとも、嫌だとも言えない夢。
違うとも言えるし、そうだったとも言えるだろう。
「…分かりません…分かりませんが、とても身近な夢だった気がします。」
幸せとも怖いとも、何とも言えない今と、よく似た思いが残っている。
失礼します、と、言い置いて身仕度を始める為に寝台からすり抜ける。
帝国第2皇子宰相閣下が、少佐とはいえナンバーズの、日本最後の首相嫡子、彼の義妹の騎士と同衾しているなんて明るみに出れば、一体どうなるか。
考えるだけでも胃が痛む、僅かだが眉間に皺を寄せて背中を向け、用意していた衣服を纏う。
どんなに憂いを浮かべていても、何の解決にもならない。
生まれた思いは泡になって消えたりしない。
今はただ、こうして彼と朝を共に出来るだけで良い。
それが幸せで、きっと彼も未だそう思っているだろうから。
恐らく最後は戦場で、ナイトメアと共に果てる運命にある自分が、彼に何一つ残せない。
俯いて唇を噛み締めるスザクの心中を、聡い紫苑が見据えて瞼を伏せる。
静かな時が、ゆったりと流れていた。
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ちょっと賢い頭を持ったスザク君。
アニメじゃそんなに勉学とかの頭を使っていなさそうなので←失礼だよ
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