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Title-story
4.ホットココア



※殿下は昔、幼少時に捕虜だったスザクを自宮に軟禁していたという俺得設定






「また手酷く悪戯されたものだね。」


目の前の麗人は不快そうに眉根を寄せて、スザクが持っていた紙袋の中にある体操着の袋を見遣った。

袋はカッターナイフで切り裂かれていて、元の生地が何色であったのかも判別できないほどに落書きされ、見るも無惨な代物に変えられている。

きっと中身はもっと悲惨な状態なのだろうと、想像に難くなかった。


それでも、用意された椅子に腰かけるスザクは、苦笑交じりに頭を掻いて紙袋をシュナイゼルの視界から消すように椅子の下へと隠した。


「すみません、本当は家に帰ってから此方へ寄らせて頂こうと思ったのですが…。」


頭を垂れて不快にした事へ謝罪の意を示すと、その手自らで茶器を用意していた彼の動きが止まり、目元が細められる。

眉間に皺が寄せられていないから、不機嫌ではないのだろう。


世間一般で言う処のブリタニア神聖帝国第二皇子殿下は穏やかで微笑みを絶やさないと云う話であって、それは真実なのだが、彼は自分と二人きりの時は表情を雄弁に変えて見せる。


何故かは知らない、教えてくれないからだ。
何度聞いても教えてくれない。


「………つらい思いをしているだろうね…だから言ったのだよ、私と共にあればこんな思いはさせないと。」
「お気持ちは勿体なく思いますが…ですがそれは、自分の目指す道ではありません。」
「価値のある世界に変える…という建て前の、罰なのだろう?」


聞き飽きたとうんざりした表情で頬杖を突いて、眼前に広がる広大な薔薇の庭を見詰めてしまう。

子供っぽいその仕草に苦笑して再度謝りながらも、前述された彼の言葉もまた、自分にとっては聞き飽きた内容だと思った。


それ程までに、彼とは長い年月を歩んできた。


茶器の湯気が、甘く温かい香りを漂わせてくれる。

視線をそちらに向けると、つられたのかシュナイゼルも少し遅れて持ち込んだティーセットを見下ろした。


「お茶にしようと思ったのだけれど、今はコーヒーや紅茶よりもこれだろう?」


そういって、ポットの小さな蓋を開いた先には、カカオと砂糖の甘くて優しい匂い。
その飲み物に、スザクは心の中が穏やかに温まるのを感じた。


「ココア、ですよね。懐かしい…覚えていて下さったんですか?」


問いかけに頷いて、彼は視線でカップに淹れるよう促してくる。

それに不快感を覚えるでもなく、むしろ10年以上前の自分の言葉を覚えてくれていた事への純粋な喜びに礼を述べた。


まだ未成年ながらも、公務で疲れて帰ったシュナイゼルを、彼の自宮でココアを用意して待っていたこと。


あの頃とは、自分は大きく変わってしまったけれど。
全てが同じというわけではないけれど。


変わらないものだってあるわけで、そんな昔の、大切なものを守りたいわけで。


胸が熱く締め付けられるような思いを抱いて、甘い香りにぎゅっと瞼を閉じた。






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その昔、私はココアをコーヒーだと思って大人ぶっていました。

少し前、私はカフェオレをコーヒーだと思って大人ぶってしました。

今、私はUC〇をコーヒーだと思って大人ぶっています。


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