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Long-story
君と貴方の恋物語 G






風邪を引く前に衣服を改めなさいと、いつもより若干強い口調で勧められて、スザクは渋々彼に渡された一回り以上も大きなカッターシャツに袖を通した。

此処は、シュナイゼルが使っている社宅のような部屋。
何かと忙しい彼は、首都から遠く離れた実家に帰る暇も無く、また面倒臭いからマンションを買ったり借りたりするのもしていない。
社宅に備えつきの日替わりの使用人に食事以外の家事を任せ、生活感の感じられないこの家に眠りに帰るのだという。

びしょ濡れになっていた自分を、有無を言わさぬ様子で車に乗せ、此処に連れて来たのがつい先程の話。
勿論、強引というよりは誘導されたような気がしたのだけれど。

ふわふわとして気持ちが良い上質なタオルを手渡されて髪を拭いていると、客間に茶器の用意が出来たらしく急かさない程度に呼ばれる。
恐る恐る足を踏み入れると、襟元と袖口を緩めて椅子に座るシュナイゼルの姿があった。

「この季節は、暖かいようで日が出ていないと冷えるからね。
あまり、自棄を起こさないようにね。」
「、はい。」

叱るのではなく窘めるまでに止めて、彼は自分にも座るように言う。

それに首を振って、スザクは未だぎこちない笑みを向けた。

「いえ、自分はこれで失礼します。
セシルさんに、まだ謝っていないし……。」
「必要ないよ。彼女には、私から説明しておいた。」

紅茶のカップをソーサーに戻した彼は、綺麗な細工が施された灰皿を引き寄せて煙草に火をつける。
紫煙が広々とした客間に漂い、消えて逝く。

「……お手数をお掛けして、申し訳ありませんでした。」
「申し訳、ね…。たしかにないだろうな。
いきなり雨の街へ駆け出して、人目も気にせず大通りを走り抜けたんだから。」

くすり、と忍び笑いを見せたシュナイゼルは、何も言えない自分を横目に煙草の灰を落とす。

ヤニの匂いが、スザクを濃厚に包んだ。

「明日あたり、トップニュースになっているんじゃないか?
‘枢木スザク、雨の中 涙を流して走る真相’ なんてね、いいゴシップになる。」

「…シュナイゼルさん……。」

怒っているんだろう。

それはそうだろう。自分の立場を弁えずに、あんな行いをしたんだから。
手間や迷惑を、皆にかけて。

この、目の前の人に会ったら、聞こうと思っていた事は山ほどあった。

どうしてユニットを? 
それは僕のせい?
ジノやルルーシュは本当は何て?
昨日の男の子に上手くやったって一体何を?

それらの疑問を投げかけたかったが、今の空気でそんな話を聴ける立場ではない。
開きかけた口を再び閉じて、スザクは壁に掛けられた掛け時計が時を刻む音を重苦しく聞いていた。

「セシル嬢から、ユニットの話を聴いたそうだね。」
「っ!!
 ……はい。」

話を振られて驚いたものの、聴きたい内容と一致していたので大人しく頷く。
灰皿に短くなった煙草を押し付けて、シュナイゼルは足を組み直した。

座りなさい、と今度は有無を言わさぬ様子で目の前の椅子を軽く指でさす。
逆らうのも気が引けて、そろそろと示された一人掛け用のソファに浅く腰を降ろした。

異様なまでに柔らかいソファと、自分を見据える紫の眼。

何を言われるか全く予想できず、スザクは向かいに腰掛けたままのシュナイゼルを怯えるように見上げた。








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