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Short/Story
傘の下。




濡れた肩をタオルで拭きながら
やっぱりこいつを好きだと思う。
なんでもないことなのに今日は
それがとても幸せなことのように思える。







よぉ


目の前の男は、そういって少し笑った。
こいつの表情に、俺への気遣いや甘さが混じってきたのに、俺は気づいている。
そんなのをひどく心地いいと感じる自分にも、気づいている。


かさ、ないの?

急に降り出したからな。通り雨だ。すぐやむだろ。

ばか、おめー今日はこのあと一日雨よ?

・・・・まじでか



空を見上げる。
そうか、そういやもう6月だ。
天気予報なんて長いこと見ていなかったから、俺の日付は5月の中旬で止まっている。


屯所までかえんの?

・・・・あぁ。

送ってくよ。狭いけど、入れば。



少しこちらに傾けた傘の端から、しずくがぼたぼたと垂れた。



うぉい!!

あ、わりわり。はは。

笑ってんじゃねぇ!



全く悪いと思っていないその男の顔を見て、俺はため息を一つ。
足を踏み出して、その傘に入ることにする。


邪魔するぜ。

おぅ。男二人じゃせめーけど、仕事戻れないよりいいだろ?

あぁ。なんつったって今日は、あと書類片付けりゃ仕事明けられるからな。

え・・・・そうなの?



次第に強くなってきた雨足が、足元をたたきつけている。
けれど大きめの傘のおかげで、俺が濡れることはなく。
隣の男は何かいおうとして、けれど迷うように口を閉ざしていた。


んだよ、らしくねぇな。いつもなら真っ先に約束取り付けてくるくせによ。

だ・・・だって、人が珍しくぐっとこらえて仕事場に戻してあげようとしてるときにそういうこと言われると、なんていうかさっき決めた意志の意味はーみたいな・・・なんつーか・・・

んだよ面倒くせー。やめるか?

や、やめない!!



焦ったように言ってから、はっとしたようにヤツはそっぽをむいた。


と、とかいっちゃってー!本当は土方君が俺と居たくて仕方ないんだろー?ったく強がっちゃって〜

はぁ?それはてめぇだろうが。最近かまってやれなかったからな。そうかそんなに寂しかったか?

か・・・別にかまってもらわなくても大丈夫ですー。銀さん大人だから。もう大人だから!

ふん、目が泳いでるぜ。あーああ、素直になりゃてめぇんち行ってやろうと思ってたのによ。

え、まじ?

でも、ま、別にいらねーってならわざわざ行く必要もねぇか。あ、ありがとよ、傘いれてもらっちまって。



屯所の前まで来て足を止めれば、ヤツは不満そうな顔で、う〜、とうなっている。
俺はそれに思わず笑ってしまって、ヤツに向き合った。



嘘だ。行ってやるよ。



そして、その左肩が、雨に濡れてしまっているのに気づく。
俺は少しも、濡れていないのに。
―――――ほんと、バカだな、こいつ。


とりあえずその肩、拭いてやる。寄ってけよ。

え、いいの?

2時間で終わる。待てるか?

し、しかたねぇから待っててやるよ。土方君が銀さんとそんなに一緒に居たいっていうから!



そんなこと言いながら、笑ってる口元を手で隠すようにするヤツをみて、俺も自然に笑っていた。



じゃ、部屋までおくってけ。



促して、さてまずは、タオルを取って部屋に行こうと考える。
先に入ってろと部屋のほうを指差し、風呂場でタオルをつかんで戻れば、外の雨を見ている姿があって。
俺に気づいて、少し笑った。



ほんと、すげー雨だな。これじゃ家帰るまでにずぶぬれになるんじゃない?



俺はそんなヤツに近づいて、同じ位置までしゃがみ、その左肩を拭いてやる。
服まで湿っていてそれに意味があるかわからなかったけれど、やらないよりは少しはマシだろう。



そうかもな。

な、そしたらさ。



ヤツの手が、俺に伸びる。腰をつかまれて、寄せられた。



風呂、一緒にはいろーな。



・・・・ああ。だからこいつは嫌なんだ。
さっきまで俺が完全に優位だったのに、こんな言葉とその言い方と声と、なによりその表情で。
簡単に逆転させてしまう。



・・・大人しく待ってたらな。

はいよー。お仕事ガンバッテ!



潔く俺を放してさっそく寝転んだそいつを恨めしく思いながら、俺は机の前に胡坐を書いた。
ふん。1時間で終わらせてやる。
一人で長々と夢の世界にはいさせてやらねぇからな。
雨が弱くなる前に、あの家に向かってやろう。


それでまた濡れるあいつの左肩を笑いながら、今度は、服を脱いで。


雨の、休日を。








―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
あ・・・あま・・・!
銀ちゃんが犬っころになりました。
どうしてうちの子極端なんだろう・・・。

土方がいつもこのくらい素直だったら円満にいくのにね。
でもたまにだからいいんだよね。








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