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Short/Story
冬の夜。(銀沖)


多分あの人はもう眠っているんだろうけど
こうなったら会いにいかずにいられない、
それを若さと笑ってくれてもいいよ。






一応ノックした扉はガシャガシャと音を立てて、真夜中の闇に響く。
あんまりたたいても近所の人がかわいそうだという理由にして、引き戸を引いてみた。


「・・・無用心」


つぶやきながら中に入れば、トイレにでも起きてきたのだろうか、ちょうど居間から出てきた目的の人物と目が合う。


「・・・・・・・」


たっぷりの沈黙で俺を見つめた後、何度も何度も目をこするその人を見て、俺はにっこりと笑って見せた。


「こんばんは、旦那」


おじゃましやーす、とさっさと靴を脱ぎ、家に上がらせてもらう。
いまだ状況を把握していない旦那は、

「え、なんで?・・・・あれ、なんで沖田くん?ここ・・・・あれ?」


と、必死に目をこすりながら考えてる様子だ。


「玄関あきっぱなしでしたぜぃ。最近は物騒だから気をつけてくだせぇ」

「あ、はい。・・・じゃ、なくて。それは沖田君ね。なんで人の家に勝手に・・・」

「会いたかったんでぃ」


旦那の目の前で足を止めて、はっきりとそう言ってやった。
思ったとおり、心底驚いた顔をして旦那は俺を見る。
不思議な色のその目に俺が映っている。
それが酷くうれしくて、俺は思わず笑っていた。
旦那の目の中の俺は、にやりとたくらんでいるように口元を上げただけだったけれど。


「今日昼間チャイナに会いましてねぃ、夜は姐さんのところにお泊りだってはしゃいでやがった」

「おう・・・」

「で、おれも仕事が終わって、明日も休みだった。」

「あぁ・・・それで私服なんだ」


なんだか起きてんだか起きてないような返事だけど、まぁいいか。


「そう。それで、夜一人で寝ようと思ったら布団の中が寒かったんでさぁ」

「おう・・・冬、だからな。――ちょっと待ってそれ聞いたらトイレ行きたいの思い出した」

「で、眠れなくて、」

「え、無視?うそ、無視?」

「おれ、」


続きを言おうとした口を、旦那の手にふさがれた。
大きくて、ごつごつしていて。
大人の男の手だよなぁ、と思う。
同時に久しぶりに触れた体温に、体の底があったかくなってくるのを感じて。


「その続き、ちゃんと聞きたいから。とりあえず布団で待ってて?」


居間の扉をがらりと開けて、旦那が俺の行くべきところを示す。
俺が一歩踏み出すと旦那もトイレのほうに向かった。



言われるまま、さっきまで旦那が寝ていた形跡がありありと残る布団の上に座ってみる。
あったかい。
掛け布団をひっぱってきて、それを丸めて抱いてみた。
お天道様のにおいがする。
万年床の布団も、今日はふっくらしているような気がした。メガネが気を使って干していたのかもしれない。

目を閉じる。
旦那の匂いと、さっき口を塞いだ手の大きさと、俺の言葉をさえぎったときの顔を思い出す。
ずるい、と思う。
おれが旦那を驚かせたり焦らせたりするのは必死なのに、旦那はそれを何の気もなくやってのける。
それであんな普通の顔をして、おれはその言葉に従ってしまうのだから。
悔しいことこの上ない。どうすれば、もっと心を乱してやれるだろうか。


「なーにかわいいことやってんの」


戻ってきた旦那は、俺の向かいに胡坐をかいて、頭をくしゃりとなでた。
それさえも俺を喜ばせるなんて、きっとこの人はわかっていないんだろうなぁ。
俺は布団から少し顔を上げて、もう表情を作ることを諦めて口をひらいた。


「旦那に、会いたくなったんでさぁ」


その手を止めて、旦那は顔の笑みを消し、俺を見る。
静かな空間のなかで、旦那は一つため息をついて、口の端を上げた。
あ、悪い顔してらぁ。


「布団が寒かったから?」

「・・・そうでさぁ」

「それは俺に温めてもらいてぇ、ってことだよな?」

「・・・・」


答えない俺から布団を奪って、旦那はそれで自分ごと俺をくるんだ。
そして、秘密を話すときのように、額をぶつけて旦那は言う。

「おめーがかわいいこと言うから、銀さん年甲斐もなくどきどきしちゃいました」

「・・・そうですかぃ。だったら成功でぃ」

「でもまだ足んねぇ。温めて、って、言ってみ?」

「・・・・・」

「寒くて、俺に温めてもらいたくてきたんだろ?」


・・・このサディスト。
でも言ってることの割に声がものすごく優しいものだから、俺は下を向いていた視線を旦那に合わせた。
そこには、声音と同じように、やさしく笑ってる旦那が居て。
俺は。


「あっためて、くだせぇ」



「―――おいで」



旦那が、俺を引き寄せる。
軽々と俺をうけとめたその腕に、やっぱり悔しくなるのだけれど。
欲しかった鼓動と温もりを手に入れたから、とりあえずはまぁ、よしとしよう。










しっかし、あんな時間に来ちゃうほど、沖田君は銀さんのこと好きなんだなぁ。

そうですぜ、知りやせんでした?

・・・・・・

なんでぃ、耳赤くなってますぜ旦那。熱かもしれねぇ、ちょっとこっち向いてくだせぇ。

・・・・頼むからさぁ、あんまり銀さんをふりまわさないでよね。










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お互いに振り回されてる、と思ってるといい。
考え方は似てるけど、銀さんのほうがちょっと大人、くらいで。
沖田は若いから意外と直球だといいよ。
私の好みだから。






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あきゅろす。
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