Short/Story
溶かす温度。
俺は今、泣く子も黙る真撰組 鬼の副長を抱きしめている。
とは言っても、腕の中の人物はテレビの方を向いていて、
そしてこれ以上ないくらいに不服そうではあるが。
どけ、邪魔だ、うざったい。
そういわれ続けて半時ほど経って、やっと言うのにも飽きてきたのか
偶に不本意さを前面に現したため息をつくだけになった。
俺は、少し腕に力を込める。
さらに窮屈になった腕の中は、また文句を言い始める。
「だからさっきから何だってんだよ!言いたいことあるなら言え!!」
全くもって検討違いのことをいうヤツに、俺は小さくバカといってみる。
予想通り激怒したその顔も、今の俺には。
「素直に甘えりゃいいのに」
隊の人員が増えて、書類も雑務も増えたから、副長あたりは今すごく疲れてるはずですよ。
甘味屋の前で会ったジミーくんにそう聞いて、俺はなんだかとても納得した。
体力的に、というよりも、精神的に疲れているのだろうなと思う。
ここ最近俺が屯所に顔を出すと理不尽なくらい(本来は部外者立ち入り禁止なんだけど、これまでよりもずっと激しく)怒るくせに、
うちに来れば俺の作ったもんをマヨなしで文句も言わずに食べ、
酒を飲めば2,3杯ですぐダウン。
おそらく本人は気づいてないんだろうな。
抱えるもんがでかくなった事で自分の気がいままで以上に張っていることも、
それが俺の前ではげしく緩んでいることも。
きっと気づいてないで、いつもどおりかっこつけてるつもりなんだろうな。
さっき俺の放った一言に、どういう意味だと問いただす土方が、
首輪も寝床も気に入っているのになかなか手懐かない猫に見えてくる。
ああ、どうしよう。
かわいいかもしんない。
「なあ、それ見終わったらさ」
耳元で、続きをささやく。
テレビから目をそらさない土方の、赤く染まった耳を見る。
俺は肩からかけてずり落ちた毛布をかけなおし、土方を抱きしめる。
もう、文句は出てこない。
こんな寒い日だから
二人で温まろう。
意地も強がりも駆け引きも全部ひっくるめて、
俺が抱いてあげるから。
服を脱いで
互いの体温に甘えて
あられもない声だしたっていい。
俺が全部飲み込むから。
そうやって、お前が甘える場所を俺が作るから。
だから、ねぇ、
朝まで、しよう。
−*−*−*−*−*−*−
こうやって、亭主関白なつもりの土方を銀ちゃんが振り回してるといい。
そのナチュラルなエロさに「ほんといい加減にして」って思ってるといい。
こんなふうにできてるうちは、うちの子たちは平和です。
今回銀ちゃんは土方の抗議は聞かない方向です。
ちなみに元ネタは、
斉藤和義「寒い冬だから」。
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