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19
ひゅー
風が僕の頬を優しく撫でる。
(あ゛ーさ、むい…)
冬から春に移り変わったばかりのこの季節。
肌寒さを感じ、本能的に暖をとろうと躯を丸める。
(あったか……く、ない)
これで少しは暖かくなると思いきや、やはり肌寒くわずかに身を震わせる。
ふわっ。
低体温の僕が普段得られないようなちょうどいい温もりに包まれて、段々と意識が浮上してくる。
「…ん、……ここは…」
「…気がついたか」
「あ」
寝ぼけ眼、開眼。
「大丈夫か?」
「…」
「おい」
「…はぃ…大丈夫です」
僕に与えられた温もりの正体は、関矢さんだった。
僕の躯は関矢さんに抱き込まれていた。
座っている関矢さんの胸に頬を寄せている自分。
「…あ、あの、この体勢はいったい…?」
「…ッ!………てた」
「え?」
恐る恐る関矢さんを見上げ、疑問を口にする。
まさか答えて貰えるなんて思っていなかった…
わずかに聞こえた声に反応して、思わず聞き返す。
「…震えてたンだよ」
僕は目を丸くした。
関矢さんはぶっきらぼうに言うと、わずかに顔を赤くして僕から顔を背けた。
以外と子供っぽいその動作に思いがけず笑みが零れた。
「…ッ!!」
「関矢さん、ありがとうございます」
その瞬間。ザァー!!
突然の突風。どこからともなくきた桜の花びらと共に僕の髪と関矢さんの髪が風になびいた。
しっかりと関矢さんを見据え、僕にできる精一杯の笑顔で僕はそう告げた。
すると関矢さんの腕に力が篭り、僕は胸に顔を思いきり押し付けるカタチになった。
さすがに息が苦しくて身じろぎすると、関矢さんはボソッと「わりぃ…」と謝り、僕をいったん離してもう一度、今度は優しく抱き込んだ。
その腕のなんとも言えないが、どこか安心する心地良さに僕はそっと目を閉じた。
…この人は恐くないのかもしれない。僕の中で関矢さんへの恐怖感が無くなった瞬間だった。
僕は関矢さんから事情の説明を受けた。
不良さん達の驚きの大声を聞いた後、いろいろなことがありすぎて僕は倒れてしまったらしい。
僕が倒れた後、気を遣って不良さん達や太郎さんを帰してくれたらしい。
そして僕は関矢さんに膝枕をしてもらっていたようだ。
納得したところで僕はまたハッて気がついて、直ぐに関矢さんの上から飛びのこうとしたが、腕から逃れられず今にいたる。
「あの、罰ゲームじゃないんですよね?」
久しぶりの人肌をしばらく堪能した後、僕は顔を再び上げると関矢さんに直球で聞いた。
「ああ」
間髪入れずに即答する関矢さんに僕はホッと息を吐いた。
「裕次郎」
僕の反応に何かしら思うところがあったのか、関矢さんが僕の名前を呼ぶ。
「はい?」
僕は首を傾げる。
「好きだ」
「…関矢さん、顔真っ赤です…」
「…うるさい」
顔を赤くして唸るようにいわれても恐くない。
「よろしくお願いします」
だから僕は少しだけ自分の意思で関矢さんの気まぐれに付き合ってみることにした。
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