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「ケガしてます。動かないで」
僕は関矢さんの手を引き寄せて、手の甲を見た。
手の甲からわずかに血が滲んでいる。
僕は急いでポケットからウェットティッシュを取り出して傷を拭う。
少しウェットティッシュに血が滲む。
「…傷はあまり深くはないか」
一人言のように呟いて、安堵のため息をついた。
「…嘗めとけば直る」
小さい声でそういい、関矢さんは僕に取られている手を戻そうとする。
「待ってください!」
僕はそう言い行動を阻んだ。片手で関矢さんの手を掴み、もう一方の手でポケットから傷薬を取り出す。
傷口に押し当てていたウェットティッシュをそっと外すと、その上から傷薬を吹き掛ける。
傷薬が染みているはずなのに関矢さんは声一つあげない。
僕は注意深く観察し、傷口から血が出ていないことを確認した。
「これでいいです」
全ての処置を終えて僕は関矢さんの手をはなした。
「へぇー。なかなか見事な手際だねー。あのさぁー、絆創膏は貼んなくていーの?」
突然横からのんびりとして、緊張感のない声が聞こえた。
その声に誘われて僕は声のした方を向いた。
人込みを掻き分ける必要もなく、モーセの十戒の如く不良さん達が左右に分かれて道ができた。
その間から現れたのは一人の男の人。
印象的な垂れ目にどこか緩い雰囲気を纏った男の人だ。
「はい。このような傷は絆創膏をすると、かえって膿んでしまう可能性があるので、通気性をよくするために絆創膏は使いません」
僕は聞かれた問いに真剣に答えた。
「へぇー、全然知らなかったぁー」
間延びした声からは好奇の色が伺える。
他の不良さん達から感じた敵意は感じないものの…
「太郎」
関矢さんが言った名前で僕の不安は確信に変わった。
「どーもぉ〜」
ひらひらと関矢さんに手を振ってますますこちらに近づいてくる。
不良さん達の態度や関矢さんの前でのこのくだけた態度から、不良さん達の中でもかなり地位のある人だと推測することができる。
そして、極めつけは関矢さんが呼んだ“太郎”という名前。
そこから連想されることは一つ。
キル幹部【半面狂】
僕はその瞬間ザッと血の気が引いた。
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