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不思議な来訪者
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すると目の前の男は一瞬固まった。


流石に人間を犬扱いはマズかったか。


いや、マジで犬のように飼おうなんて思っていなかったぞ。


そんな趣味はない。ただ、コイツが犬っぽかったから言ってみただけだ。

そんなことは目の前の男にも分かっただろう。

すぐに何度も頷いてきた。

何度も何度も首を縦に振るその姿はなかなか面白かった。


それをマジに捉えた馬鹿野郎は五月蠅かったがな…

「そ、壮史さん!もう少しプライド持ってくださいよ!!」


雑魚を片付けた武が寄ってきて何とか説得しようと試みているが、男の方は頑として譲ろうとしない。

そんなに住む所が欲しいのか。


とりあえず、

「コイツ名前の通り本当に野蛮なんすよ!?犬だなんてきっと奴隷のように扱いますよ!」

最終的には「マジ人間の皮を被った悪魔なんスよ!!壮史さんマジ正気に戻って下さい!!考えたくないッスけど、もし蛮に脅されているなら俺、できる限り力になるッスから!!」などとのたまいやがった。


俺のことを何だと思ってるんだ。という内容の発言をしているコイツには一度分からせてやらねーとな…。




「グフッ!!」

そう思って距離を詰めたにも関わらず、俺の拳より先に、何故か武が心配していた男の方に殴られていた。


かなりの距離を武が飛んだ。というより、男に横っ面を殴られてふっとんだ。


「五月蝿い…」

この男喋れたのか。

さっきから一言も発しないから話せないのかと思っていた。


不機嫌そうにボソッと呟いた男の声は重低音で武とは違い、聞いていても耳障りだと思わなかった。


不良共のかんに障る馬鹿みたいに間延びした声や、ベラベラと話すヤツが嫌いな俺としてはかなりありがたい。



不良嫌いな俺だが、この犬のような男は何故かあまり不快に思わなかった。


この男、名前は確か壮史だったよな。

武がそう呼んでいたから間違いないだろう。


「おい、壮史」

ピクッ!!

名前を呼ばれた男が武から視線を俺に向けた。

というより、目が完全に前髪で隠れているので、顔を向けたの方が正しいのだろうか。


あぁ、尻尾が千切れんばかりに振られているな。
顔は髪でわからないが、よく見ればとても嬉しそうにも見える。


話したこともないような人間から呼び捨てにされたのに、怒らないいどころか逆に嬉しそうだなんて俺には信じられない。







武が名前に“さん”をつけたってことは壮史は族の中でも武以上の地位にいる。


これは確信できる。
武は例え年上だろうが自分より弱い相手には絶対に膝を折らない。


武とはそういう男だ。



幹部である武の上と言えば、該当するのは二人だけだ。


総長、あるいは副総長。



俺の経験上、チームのトップを張るような人間は馬鹿みたいにプライドが高いものだ。


当然、犬扱いも呼び捨ても許容するはずがない。

加えて壮史はどう見ても年上…。



…本当に謎な奴だ。






まぁ、この男の真意がどうであれ俺にはどうでも良い。


「お前、俺と来い」



なあ、壮史。お前、少しはこのクソつまらねー俺の世界を変えてくれるか?

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