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不思議な来訪者
10


この一角は頭上にあるライトでフロアの他の場所よりは明るい。

俺は改めて周囲の人間に視線を向けた。


俺の斜め横には一人がけの椅子に座った琥珀色に近い金髪に茶目の英李がニコニコ笑ってこっちを見て座っている。

背もたれにもたれかかったままだったが、俺の視線に気づくと背中を起こして座り直し笑みを深め、ついでに片手をひらひらと振ってきた。



そんな英李の様子を見て思うことはただひとつ。


胡散臭いことこの上ない。
というのが正直な感想だ。


この笑みの下で一体どんなことを考えていやがるのか…、なんにせよ、質が悪そうな男だ。


やはり、ハルに似てるように見えたのは俺の勘違いだったようだ。と落胆せずにはいられない。




ハルというのは実家の近所の仙堂さんという家で飼われていたセント・バーナードだ。

ハルは、珍しいロングの美しい毛並みに凛とした佇まい。のんびりとした表情の中にも聡明さが感じられる独特の雰囲気を持った犬だった。



シバとは違い俺を嫌って近づく度に吠えていたので完全なる俺の片思いだったが、本当にいい犬だった…とうとう一回も撫でることは叶わなかったが…


未練がないと言ったら嘘になるか。



この胡散臭さが抜けて知的な感じが増せば、理想的なのに、本当に残念だ…
俺はため息を付きたくなるのをこらえた。




そんな気持ちを切り替えて次のやつに視線をやる。
最初から無言で見られているため、俺も意識を持ってきざるをえなかったというだけだが。




目の前には俺達の座るソファーと同様のものに、だが、俺達とは違い、極限まで離れて腰掛けた二人の男。


俺から見て左のやつはこの中では珍しい長めのショートヘヤーの黒髪茶目の男だった。

しかし、決して真面目な感じではない。それに、片方には眼帯がしてある。無表情かつ、生気があまり感じられない片目で俺たちを見ているのかも怪しい。


焦点は定まっていないのに瞬き一つせずに死んだような目をしてこちらに顔だけ向けているといった具合だ。

…だが何気にカーリーコーテッド・レトリーバーに似ている気がする…。目は死んでいるが、優美で上品な外見にスラっと長い四肢はイメージ通りだ。

なんてもったいない!



一方、右側の奴はワックスで逆立てただろうツンツンヘヤーの赤い髪にカラコンでも入れてるのか、赤い目をしている。

両耳にはこれでもかってくらい大量のリングピアス、辛うじて耳たぶには何もついていなかったが、逆にそれが妙に気になる男だ。



こちらの方は、あからさまに敵意むき出しつー感じ。苛立っているのだろうが、貧乏ゆすりはやめてほしいものだ。





それにしても、こいつはローデシアン・リッジバックか…やべ、そう考えるとこの場所が天国に思えてきた。



「総長、そいつ誰ッスか!?ンで、その男と、いったいどういう関係なんスか…?」




ローデシアン・リッジバック…もとい、赤髪がぶしつけな視線をよこしつつ壮士にそう聞いてきた。

やはり、総長である壮士は尊敬しているが、隣の男は胡散臭いし、何故か総長の態度がおかしいし、マジどうなってんだ…誰か、嘘だと言ってくれ…って感じが全面に押し出されていやがるな。



なんとも失礼な話だ。


「…今は、…ペッ「氷里蛮。ただの一般人だ。そしてこいつは俺の同居人」」



少々の間のあと答えようとした壮士を遮って俺はそう言った。




てか、こいつ今確実に“ペット”って言おうとしやがったな。まあ、確かに最初にこいつに俺のペットになるか?と聞いたのは俺だが、この状況で壮士がそれをこの場所で言うには、リスクが高すぎる。つーか、ただ単に面倒くさくなるのを回避したかったってだけだが。




隣では壮士が俺の言葉にこの世の終わりみたいに沈んでいる様子が見える。


少々かわいそうな気もするが、俺の平穏な生活のため、ここは我慢して貰おう。っと薄情かもしれないが放置することにした。


すると、壮士が俺にもたれ掛かって服にひしっとしがみついてきた。
ガクッと項垂れている姿に垂れたしっぽのオプションが見える。


「…、同居……、ただ、の……?」

おずおずと顔を上げてやや下から上目遣いに見上げられ、俺は心臓を射抜かれた。


だってシバだぞ!?めっちゃ似てんだぞ!?あぁ、本当にこいつの顔は最高だ…。


性格も似てるし、ほんとに可愛すぎる!!本物と暫く離れている反動もでかいが、俺はこの顔に弱いらしい。と改めて思った。


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