不思議な来訪者
2
朝起きて支度を終え、部屋を開けた俺の目に飛び込んできたのは、190センチ程は有りそうな大男だった。
昨日同様うつ伏せに倒れている。
…またか。
銀髪に、両耳には有り得ない程のピアスがある不良。
倒れていた人物は昨日同様なのに、唯一違う点は、この男が俺の家の中に倒れているという点だ。
しかも、昨日とは違い、若干血の匂いがする。
怪我でもしているのかもしれない…何故、俺の家の中にいるのかは分からないが。
そこでふと、頭をよぎったのは、かの有名なメリーさん伝説だった。
次の瞬間、俺は倒れていた男の襟を掴むと玄関まで引きずり、ドアを開け放ち昨日同様外に放り投げた。
バン!!
べしゃ!!「ぐッ!!……」…しーん…。
昨日同様向かいの家の壁に男が激突した音が聞こえた。
…昨日より強く投げ過ぎた気もする。
ま、いいか。
「顔洗うか」
こうして再び生ゴミを撤去した俺は顔を洗い、身なりを整えた後、鞄を担ぎ、家を出た。
てくてく。
…………………………。
数歩歩いてから俺は止まって少し考えた。
ま、俺も鬼じゃないからな。
俺は少し戻ると、倒れて頭から血を流している不良の上にポケットからだした絆創膏をちょこんと一枚乗せた。
メリーさん。これで成仏してください。
手を合わせることも忘れない。
「さて、今度こそ学校行くか」
誰にともなく呟いて俺は通学路を歩き出した。
そんな俺の後ろ姿を頭から夥(おびただ)しい血を流した不良がうつ伏せのまま首だけを回して、絆創膏を握りしめながら頬を染めて俺の後ろ姿を見ていたなんて、俺は知らなかった。
というか、できれば永遠に知らないままでいたかった。
今日も今日とて退屈だった学校が終わった。
クラスの数人(不良)に挨拶をされたので、それに手を軽く挙げる動作で返事をし、教室を出た。
校舎を出た所で何やら人がざわついている。
何だ?
正門の所に珍しい動物でもいるのだろうか。
正門にたどり着いた俺の視界に入ったのは、金髪の不良。もとい、従兄弟の馬鹿(武)だった。
ある意味珍獣か…
ヤンキー座りをしながら今度は猫相手にメンチを切っていた。
…馬鹿だ。
俺はしょうがなくその馬鹿に近付いた。
馬鹿の視界が俺を捕らえた瞬間、「蛮ー!!」俺の名前を呼びながら拳を握りしめて突っ込んで来た。
またか…。
ヒュッ!
パシッ。
殴りかかってきた馬鹿の普通に重いパンチを俺は軽く受け止めた。
「いつもいつも何なんだ一体」
いい加減うんざりだ。
思わず溜め息が出た。
コイツは何故か最近会う度に殴りかかってくる。
非常に面倒臭い。
すると、昨日同様俺の言葉に反応した馬鹿は急に俺の胸倉を掴んで何やら喚きたてた。
行動がワンパターン過ぎる…だからコイツは不良のくせに弱いんだ。
「お前ヒデーよ!!本当に血の通った人間か!?」
今度は何だ。
俺はこの場所で聞いても一向に構わなかったが、武は観衆の目が気になるらしく。
「ちっ、場所移動すんぞ!」
ボソッと呟いた。
俺達はとりあえず人気のない公園にきた。
敢えて人がいない所を選んだのは武のためだ。
善良な一般人の俺と見るからに不良のコイツの場合、明らかにカツアゲされている図だ。
警察を呼ばれかねん。
(真顔)
「ったく、信じられねー。普通、怪我してる人間を何の躊躇もなく蹴り出すか?」
ベンチに座り、さっき武に買わせたばかりの缶コーヒーの蓋を開けた。
…何だって?
「しかも、怪我人壁に叩きつけた上、絆創膏一枚だけって…絆創膏一枚でどうしろと!?」
何故今日の朝のことをコイツが知っているのか…答えは簡単だ。
「テメーか、武。俺の家の中に生ゴミ放置してくれた馬鹿野郎は」
何てことしてくれてんだハゲ。
「ちゃんと棄てろや」
コーヒー飲んだら腹に一発入れて叔母ちゃん家に強制送還の予定だったが…気が変わった。
「事情、説明してくれるよな?…もちろん…?」
俺は武の頭を片手で掴んで少し力を入れる。
すると、
「ハイッ!!!!」
急激に青ざめた武は勢い良い何度も頷いた。
よし、いい返事だ。
(礼はたっぷりしないとな…)
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