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不思議な来訪者
9

「まあ、いつまでもそんなとこにいないでとりあえず中に入りなよ。ほら、壮士と武も」


「はい!」


武の敬礼でもしてそうな返事を聞いて俺は英李も武より腕ぷしが強いことを確信した。


本当に、こいつの態度はわかりやすい。まあ、馬鹿武が口を滑らしたりもしてたから薄々気づいていたがここにきて、壮士がこの族の総長だっつーこともはっきりした。




そういって俺の手を引いて進もうとした英李だったが、一瞬早く他の手が俺の腕を掴んで後ろに引いた。


トンとぶつかったのは男の胸板だった。
…男しかいないのだから当たり前っちゃーそうなんだが、一瞬鳥肌が立ったぞこら。



俺は確認のために後ろの男の顔を確認した。
そこでシバ似の顔が見えたので鳥肌も収まり俺は力を抜いた。


「触るな」



いつもの覚束ない口調とは裏腹に壮士の声はしっかりと響いた。
その間に英李の手を払いのけ、更に睨みつけている。


俺はそんな壮士の表情に釘付けだった。


だが、壮士は俺の視線に気づいた瞬間にその殺気を収めて今度は情けなく眉を下げた。


「…蛮、さわらせ、る、ヤ…」


そんな壮士に俺は夢見心地だった。なぜなら、その様子が俺を他の奴に取られまいとするシバに凄く似ていたからだ。シバもよく遊んで!構って!っと俺に戯れてきたものだ。


俺が友人の家に遊びに行くと家を出るときシバは必ず「クゥ〜ン…」と甘えた声を出して俺を見つめたものだ。そのシバに絆されて遊びやデートをすっぽかした回数は、数えるのもバカバカしくなる程だったのを覚えている。


その時のシバそっくりの行動に俺は壮士の頭を撫でた。


そんな俺達の目の前で壮士に手を払いのけられた英李は苦笑しながら肩をすくめたのが見えたが、俺は壮士に視線を向けて手を動かし続けた。



暫くそうしてやっと落ち着いた様子の壮士を伴って俺は案内された三人がけ用のデカめのソファーの真ん中あたりに腰掛けた。



俺の横に座らず突っ立っている壮士に視線で座るように促して俺は足を組んだ。


すると、隣に腰掛けた壮士が俺に甘えるようにコテンと頭を俺の肩のあたりに置いた。
あまり重くもなく、至近距離にある壮士の顔に悪い気はしないのでそのままにしておく。



視線だけをサッと店内に向けた。


こいつらが集まるバーにしては上等な作りだな。
ゴシックな作りでなかなか雰囲気のある店だ。しかも、ソファーの感じも上等だ。硬すぎず、柔らかすぎず絶妙なスプリング加減だ。


座り心地に満足した俺は、ふっ。と一息ついて改めて周りを見渡した。
そこで、何故か唖然、呆然を絵に描いたような様子の男たちの間抜け面が見えた。


中には完全に顔が引き攣っている者もいる。
というか、さっきまでの喧騒が完全になくなっていた。



いきなり何なんだよこの空気は…だったらまださっきの殺伐とした感じのほうがマシだったような気がする。
本当にこいつらわけがわからねー。
まー、平凡な一般市民の俺にガラの悪い不良どものアホな思考なんぞわかるわけねーか。


「何か、飲む…?」


俺に甘えたように擦り寄っていた壮士が実に気の利いた言葉を発した。



実は喉が乾いていた俺は遠慮なく頼むことにした。
今日は財布、もとい、武もいることだしな。


そもそも俺の貴重な休みを奪ってまでこんな辛気臭いところに連れて来られたのだから飲み物を奢るくらいはするのが当然と言えるだろう。


「んー、じゃあホットウーロン頼む。おい、武、お前本当に気が利かねーな。さっさと用意しろよ」


俺は立ったままだった武に視線を向けてそういった。
俺達のいるソファーの横にぼーっとつっ立ってんならそのくらいは喜んでするべきだろう。俺は当然そう考えたのだが、武は違ったらしい。



生意気にも俺を睨みつけて口答えしてきやがった。

「テメー、そんくらい自分でッって壮士さん!!俺がやりますンで座っていてください!!」


昔はハイハイ言いながらなんでも言うこと聞いたっつーのに、最近ほんと反抗的になったよな。



思えば、こいつが夜遊びしだしたころからだったからもしかしたら、この裏影夢って族に入ったことで武の中で何かが変わったのかもしれねーな。


ちょっとやそっとじゃ泣かなくなったし、喧嘩は俺には及ばないがそれなりに強くなったし、度胸もついたと思う。だが、反抗的になったのだけはいただけねーな。



今ぶん殴ろうかと思ったが、壮士が立ち上がる様子を見せたので慌てて立ち上がって用意しにいったので後回しにしてやることにした。





何やらブツブツと俺に対する文句を呟く声も聞こえたので蹴りもオマケしてやろうと心に決める。





ホットウーロンとおそらく酒だろうグラスを持って武が帰ってきた頃には、回りの視線はあまり気にならなくなってきたが、相変わらずの静寂にプラスして大きなテーブルを囲んで座っている目の前の奴らの様々な視線を至近距離で感じるというなんとも言えない状況になった。



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あきゅろす。
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