不思議な来訪者 3 俺にはちゃんとした予定があるんだからよ。 こいつらのことに関わる暇なんてねーんだ。 自然、眉間にシワが寄る。 いつもは俺の凶悪な顔に多少なりともたじろぐ武だったが、今回に限ってはなぜか余裕の表情で、笑みまで浮かべている。 一体なんだってんだ、…ニヤニヤすんじゃねぇ。キメェーよ。 「ふッ!!この俺にそんな口きいていいと思ってんのか?ぁあ!?」 よし。殺そう。我慢の限界だわ。 「ち、近寄るな!こいつがどうなってもいいのか!?」 武がどこからともなく出したそれは、包装されているが、間違いなく今日届くはずの『ドキドキ!ワクワク!超キュート!犬の魅力たっぷり!魅惑の世界へようこそ☆』のDVDだった。 俺の表情の変化に、己の勝利を確信したかのような顔をした。そして、得意気に言った。 「そうだ!コレはお前が通販で頼んだDVDだ!!」 「クソが!」 俺はそう吐き捨てた。武のやつ、俺の犬好きを利用しやがった。着いていかなけりゃ壊すって魂胆か!! それは、マニアレベルの犬好きにはたまらない逸品で、初回限定版の数量限定タイプなんだぞ…しかも、 三年かけてやっと手に入れたものなんだ!! 武をぶっ飛ばして取り返そうにもあの中にはDVDの他に犬のポストカードにステッカー、いろんな犬の鳴き声入りCDにステンドグラス製の犬栞までもがセットで入っている。 迂闊なことはできねぇ…!! 「そんなにこれが大事か?」 手の中の包をひらひらと動かし、よりいっそうニヤける武。 「なんでテメーがそれを持っていやがんだ…!」 「家の前で偶然きた宅配屋から受け取ったんだ!兄ですって言ったら普通にゲットできたぜ!!」 自慢気な武。 誰だ、本人に渡さねぇような職務怠慢野郎は。宅配屋なんてやめちまえ。 ンで、テメェーは何言ってやがんだ馬鹿。 「で?どうするよ?」 「このッ」 「ふん!おとなしく俺についてくるか、さもなくば…」 奴の手の中にあるものは俺の中では何にも代えがたいものだ。俺は今回はおとなしくついていく決心をした。 「俺が頂いて夜のおかずにしちまうぞぉー!!」 …俺が意を決して口を開く直前に馬鹿野郎がこんなことを言いださなかったらな。 俺は衝撃のあまり俯いた。 これだから童貞は。 長年右手にのみ世話になっていると碌なこと考えねーんだな。 武のそこの見えねー程の馬鹿さ加減と哀れさには同情を禁じ得ない。 「!!」 俺が呆れ果てている側で武の言葉に壮士が過剰とも言える反応をした。 完全に俺にのみ意識を向けていた武は当然気づけなかった。 一瞬の後、確かに今まで武の手にあったDVDは壮士の手に渡った。 「そ、壮士さん!?」 今回は味方だと思っていたやつからの突然の裏切りに武は素っ頓狂な声を出した。 俺はというと、一瞬「でかした!!」と叫びそうになったが、壮士が俺に渡すつもりがないとすぐに分かった。 「壮士。そいつをこっちによこせ」 壮士の方に手を差し出して言ってみたが、いやいやと首をふる。しかも、DVDを自分の懐に仕舞いこんでしまった。 「壮士…。」 苛立ちを覚えた俺は歩みを進めて壮士に近づいた。 「そ、壮士さん!!や、ヤバいッス!!」 横から武の慌てた声が聞こえたが、知るか。 「悪い子には仕置が必要か?なぁ」 目の前まで来ると俺より先に壮士が動いた。 「いけぇー!!」 今度は横から妙に嬉しそうな声が聞こえた。武のやつ、やっぱ殺っか。 族の総長の壮士と、善良な一般ピープルの俺。本気で戦ったらどうなるだろうか… それなりに楽しめそうだ。と俺はニヤリと笑った。 来るなら来やがれ。 「お、れ、いる。これは、蛮に、必要な、い」 そう言ってどこからともなく取り出した鋏で野暮ったい前髪を切った。 そうして現れた顔に俺はすこぶる弱い。 だって、シベリアンハスキーのような顔で、しかも、シバそっくりなんだぞ!! この状態で本気で殺り合うことは不可能だ。 本気で教育的指導ができなくなることがわかっていたから野暮ったい前髪も放置しておいた。 できれば毎日でも見ていたい顔を我慢してたのはそれが理由だ。 全体の顔立ちと左右で色の違うシバと同じ色合いのオッドアイ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |