不思議な来訪者
1
「…ン…ぁ、ふッ…ぁー。朝か…」
今日は土曜日だ。
よって、早く起きる必要など微塵もないのだが、そうも言っていられなくなったのはコイツが来てからだ。
いつものようにベッドの上で目覚めた俺は窓に向けた視線を反対に向けた。
「蛮…おは、よう」
そこに行儀よくおすわりしていたのは俺の犬…もとい、同居人の壮士だった。
「…はよ、…」
俺はあくびを噛み殺しながら、俺に期待の眼差しを向けてくる壮士の頭を撫でてやった。
ま、撫でるっつったら聞こえはいーが、実際には、ただでさえ長い髪の毛はボサボサになり、見るも無残なのだが、こいつにとっては嬉しいようだ。
今朝も、ないはずの尻尾がブンブンと振り回されている幻覚が見える…
「ご、はん。できて、る」
お、今度は、耳が立った。
その様子が可愛すぎて、俺はベッドから出て立ち上がると未だにおすわりしてこってを見上げている壮士のぐちゃぐちゃにした髪をサッとすいて元に戻してやった。
「いくぞ」
「!!」
俺は振り返らずにリビングを目指していく。
壮士が耳を立てて、尻尾を振り回して嬉しそうに後ろからついてくる気配がした。
そんなことをちらりと思いながら、俺はこれまでのことを考えていた。
こいつ、壮士と暮らし始めて早くも1ヶ月が経った。奇妙な形で始まった同居の割には毎日は何事も無く過ぎている。
毎日壮士が作る飯はそれなりに美味いし、掃除も洗濯もなぜか壮士がしている。
あ、そういえば、問題もあったな。
まず、一つ目。
…つーか、この時点で結構な量あったんじゃね?
あいつの顔の効果ってスゲー。
そう考えりゃ、あいつのシバ似のシベリアンハスキー顔でどれだけ俺の怒りのゲージが伸びたことか…。
まぁ、それはとりあえず置いとくとして、一つ目だ。
一つ目は、ベッドに登ってくること。
本物のシバは俺が“OK”といったときだけしかベットには上がらなかったが、壮士はそうはいかなかった。
てか、毎回毎回、夜一緒にベッドに入ろうとするこいつを蹴り落とし、なぜか朝には俺の上に乗り、悪趣味にも俺の寝顔を眺めてるらしいこいつを蹴りあげ…と教育的指導を行なっていた。
だが、…何度体に教えこんでも一向に治らなかったため、とうとうキレた俺が1日ほど無視を決め込んだところ、ベッドに入ってくることはなくなった。
男の寝顔なんて見つめて何が楽しいのだか。
二つ目は、「おはよう」「いってらっしゃい」「おかえり」「おやすみ」に口を舐めようとしてくることだ。
いくらシバに似ているとはいえ、人間の、しかも男にされて嬉しいはずがねぇ。
もちろん、こちらも教育的指導をしたが、やはり全く効果がなかった。
こっちの方は互いに譲らず膠着状態が続いていたが、一日1回までで口にはしないということで妥協してやった。
…本物の犬だったら大歓迎なんだけどな…。
あとは、四六時中ついてくることとかな。
細けーものを入れたら他にもたくさんあるぞ…。
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