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煙
嫌いな匂いがする。
―煙―
「また煙草ですかー。早死にしますよセンパーイ」
「放っとけよアホガエル」
近頃あなたは煙草を吸い始めた。
ミーは煙草にいい思い出が無い。
両親に背中やら腕やらに押し付けられたことがあったから。
だから、
ミーの大好きなあなたからミーの大嫌いな両親と同じ匂いがすることが酷く辛くて。
正直に言う気にはなれなかったからとても卑屈な言い方で。
「煙草やめてもらえませんかー。センパイの出した煙なんか吸いたくないんでー」
「・・・うっぜー」
呟いてミーを殴り倒した。
あなたの暴力なんていつものことだったけど。
あなたはミーのシャツを破いて背中に煙草を押し付けた。
「うっ・・・、ぐぁ・・・っ!」
熱い。
今となっては任務で負う傷に比べれば何ともない。
それでも昔のことを思い出して、その時の衝撃に怯える。
大した痛みもないまま、過去のトラウマだけが自分を追いつめる。
「っは、ぁっ・・・っぅ、ぐ・・・っ!」
ぐりぐりと焼きえぐられる感触。
あなたと重なってしまう大嫌いな人。
嫌だ、そんなに似せて見せないで。
その時。
じゅ、と音を立ててあなたの手から煙草が落ちた。
するりとセンパイの手がミーの傷口をなでる。
嘘みたいに優しく、優しく。
「おい、何だこれ」
「ぅぐっ・・・え・・・?」
「俺がつけたのじゃない火傷痕があるんだけど」
あ、まだ残ってたんですねー。
「ミーがちっちゃいときに親にやられたんですよー」
はっとしたように申し訳なさそうな顔をして黙りこんだ末に、
「・・・早く言えバカ」
と、ぽつりと言った。
さっきまで背中を焼いていた手がミーを抱きしめる。
煙草の匂いが一層きつくなった。
やっと気が付いたのだが、どうやら自分は泣いていたらしい。
「センパーイ、煙草やめる気になりましたー?」
「・・・もう吸わねー・・・」
ばつが悪そうに顔を首筋に押し付けてきて、ミーの傷口を指でなぞった。
優しかったり酷かったり、わかりづらくて困る。
(end)
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