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朱
影が伸びていく。
―朱―
この季節の夕日はとても朱い。
木も人も街も焦がしてしまうような色をしている。
「お前の影ちっせー。実物もチビだけど」
後ろを振り返ってあなたは子供のようなことを言った。
「年齢差があるからですー。ミーだってセンパイくらいの年になれば背だって伸びてますからー」
これも子供のような返答だっただろうか。
実際ミーは未成年だけど。
「しししっ、ガキくせー。お子様は家帰って寝ろよ」
「人のこと言えるんですかセンパーイ」
影がどんどん長くなっていく。
子供がすれ違いざまに誰かに「バイバイ」と手を振っていた。
さよならの時間帯に相応しい街の色だ。
「さよならってなんか嫌ですねー」
寂しいし、ポツリと呟いた言葉がいろんな声に飲まれていく。
「ふーん。じゃあ毎日さよなら言ってやろうか?」
面白がっているのか。そんなの冗談じゃない。
「最悪ですねーそれ」
「案外本気だぜ?」
にやり、と笑うあなたの横顔が朱色に染まっている。
ミーたちみたいな人間には明日の保障なんて無い。
だから最後の言葉がさよならになるのが怖くて。
ほんとにさよならするのが怖くて。
「殺し屋業から足洗って普通に生きたいですー」
そんな後悔の言葉しか出てこなかった。
「今さらこの仕事やめて生きてけるワケねーよ」
生かしといてもらえるワケがない。
現実を見ればそういうことになるけれど。
「でも・・・」
センパイと明日も明後日も確実に生きていけたらって思いますからー。
そう言うとあなたははにかんだように笑って
「王子がいる限り明日も明後日も確実に生きてんな」
と言った。
ほんとにそうだろうか。
わからないままに理由もなくそうですね、と呟くように答えていたことに少し驚いた。
あなたの横顔は藍色に変わり始める。
(end)
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