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誠鬼姫 〜椿〜
*


「明けましてっ…」










「「「おめでとーう!」」」









ここ─…新選組の屯所の一室では、お正月の宴会が行われていた。



しかし門番の隊士は遠くから聞こえてくる宴会の声に肩を落としていた。


今日は1月1日。


年明けとあって、関係者が新年の挨拶にやってくる数も多い。

それ故に門番の隊士は宴会に行きたくても行けないのだ。






こんな日に門番の担当になるだなんて…。





「あ〜あ。早く俺も宴会行きてぇよ。」

「そうっすねぇ…。これいつ終わるんですかね…。」


はぁ〜、と深く深く息をつき門番の二人は屯所内へと顔を向けた。

そこからは賑やかで楽しそうな声が漏れてきている。



そして再びうなだれてため息をついた。







「あの〜、すみません。」


そのとき、うなだれたままの二人に突然声がかかった。


またか…、そんな思いで若い方の隊士が顔を上げた。

もう一人の隊士はと言うと、不快感を顔に出さないよう必死で堪えて俯いていた。


「こちらは新選組さんの屯所でよろしいでしょうか?」

「………。」


若い方の隊士は黙ったまま何も言わない。


「?あ、あの…?」

「…はっ、はははははい!」

「そうですか!よかった、ちょっと迷う寸前だったんです。」

「ど、どなたに…ご、御用ですか?」


若干、関西訛りのイントネーションで話す若い女性らしき声と不自然にどもりだした隊士が気になり、俯いていた隊士はそっと顔を上げた。


「……!」

「山崎をお願いします。」


ニコリとほほ笑むその姿はとても美しいものだった。
























「ふ、副長ー!!」



ドタドタドタ…バン!


「副長!」

「うっせぇな。今は宴会中だ。それともお前、腹切りたいのか?腹ァ。」

慌てて駆け込んできた隊士に脇目も振らず、他の皆は宴会に夢中だ。

そしてこの副長もしかり。

手にお猪口を持ち酒を呷っている。



一方、隊士は切腹と聞かされ一瞬怯むが、表情から冗談だと読み取ると安堵の息をついた。

「び、びっくりした…。じゃなくて、副長!一大事です!」

「ちっ…こんなときに。簡潔に述べろ。」

「門に、隊士を訪ねてこの世の者とは思えない美女が来ております!!



隊士が叫んだ刹那、宴会場の全ての音が止んだ。







「「「「な、なにーっ!?」」」」











「見に行こうぜ!」

「美女って、どれくらいだ!?」

「とりあえず門だ!」

我先にと門へ駆け出そうとする隊士に門番の隊士はオロオロとする。


「お前ら、動くな。」


ずん、と威圧感のある声がその部屋に響いた。
その瞬間ぴたりと全員の動きが止まる。


「あはは!さすが土方さん。影響力抜群だ。」

「総司、お前もちょっと黙ってろ。」


土方と呼ばれた男は総司という男に呆れた表情を向けて言った。

言われた総司は悪戯っ子のような笑みを浮かべて口をわざとらしく手で抑えた。


「んで、その美女とやらは誰を訪ねてきたんだ?」

「あ、えと…そのことなのですが…。」


ごくり、そんな音が全員の喉から聞こえた気がする。

「山崎さん、と。」










「…は?」

「山崎…?」

「…つーことは、こいつ?」


こいつ、と呼ばれた青年は部屋の隅の方でチビチビと酒を飲んでいた。


「こいつ、とは私のことですか原田さん。」

「お、おう。」


静かに問い掛けられ、少し気まずそうに原田と呼ばれた男が怯んだ。

山崎はそんな原田の態度に特別反応も示さず、そうですか、と呟いた。

「美女…。」

「なんだァ?誰か心当たりでもあんのか?」

「そのニヤニヤ、止めてください。…心当たり、あると言えばありますが…。」

顎に手を添えて考え込む山崎を隊士全員が見つめた。


「その方、私に似ていませんでしたか?」

不意に顔を上げて門番の隊士に尋ねた。

「山崎さんに、ですか?…あぁまぁ、山崎さんが女装したら似てるとは思いますが。」


元々端整な顔つきをしていた山崎の顔を食い入るように見つめながら隊士は言った。

その答えを聞いた山崎はやはり、と呟いて土方に目を向けた。


「恐らくそれは、私の」

スパーン!

「すいません、いつまで経っても来られないので上がらせてもらいました。」

「妹です。」


突然入ってきた女性と山崎の発言に、その場にいた全員が二人を交互に見やって叫んだ。


「「「「はぁーー!?」」」」









つづく


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