そしてまた、恋をする
17
…*…*…*…*…
「……ハァ、今日もサボりか?」
眼鏡をかけた真面目そうなその人は、森の中で本を読んでいる少年に声をかける。
「出席には……なってます。」
「全く……。サボるにしても、此処だと何があるか分らないだろ。風紀室に来いと何度言ったら理解してくれるんだ……。」
呆れた様子で眼鏡の男はそう話す。
瞳には、どこか心配しているような焦りの色が伺える。
少年はパタン、と本を閉じ男を見上げる。
「だって、ここの方が落ち着くし……。」
「何か遭ってからじゃ遅いんだぞ?」
「心配、してくれてるんだ。」
ふふっ、と笑いながら少年は立ち上がりくるっと身体を回転させる。
男はまた呆れたような面持ちで溜息をついている。
「……最近、どうした?何か、あったのか?」
男は呆れた様子から一変、真面目な顔をして少年に問う。
少年は空を見上げ、突然涙を流した。
その横顔は、儚くも美しかった。
男は目を見開いて少年を見つめる。
そして、少年はポツリポツリと、拾うように言葉を発した。
「ピアノは……簡単だったのにな。難しいね、人は。」
少年は男に向き直り、泣きそうな顔で笑ってみせた。
「どんなに駄目だって分ってても……許しちゃうのは、やっぱり自分の弱さなんだ。はっきりしないといけないのに、怯えて、恐がって……何も出来なかった。」
少年は言葉を発する中で、幾度も表情を歪めた。
悲痛な叫びのように、何度も、何度も。
「でも、でもね。もう決めたんだ。はっきりさせよう、って。だからね、俺……行かなくちゃ。」
少年はまた、泣きそうな顔で笑った。
男は驚きのあまり、身体が動かないよう。
そして、少年は走り出す。
「……ばいばい、飛鳥。」
「待っ……!」
振り向いた先には、既に少年の姿は無く、伸ばした手と声は……空を切るばかりだった。
そして、何処からかピアノの音が響いた。
悲しい……悲しい想いを乗せて。
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