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Novel
第1路 Town where wolf lives
北に向かってひた走る1人の青年と、広大な空を優雅に舞う一羽の鳥

ビーとフライはもう、かれこれ5時間ほども前に休息をとってからというもの、ただひたすらに走りつづけていた。
ビーは時々、空にいるフライを目で追っては、「疲れ」を知らない彼を羨ましげに見つめるのだった。

「北の方向に町を見つけた」
と言ったフライの言葉を信じて、この寒さのなか走っているというのに、一向に町らしき町が見えてこない。

時折、もともとは人間が住んでいた頃の残骸が、荒れ果てた廃墟となって現れるのだが、大体はほとんどが風化していた。

5時間も走りどおしなわけだから、ビーもいい加減、目の前がかすんできていた。
このまま走っていては危ないので、少しスピードを緩める。
その際にTigerの燃料計もちらと見たが、もうあと1時間も全開で走れば、燃料は尽きるだろう。

ビーはフライを見上げて、目で合図を送る。
そうすると、フライは「分かってる」とでも言わんばかりに、速度を緩めて低く旋回して見せた。

ビーがフライの合図を確認して、もう1度燃料計を確かめようとすると、
フライがゆっくりとこちらへ近づいてきて、興奮したように低く言った。

「町が見えた!」

「今度は、嘘じゃないよな?」

「ハナから嘘なんてついてねぇよ。実際にあったんだから。」

落ち着きがないフライトは対照的に

「俺は、お前と違って見えないからな。」
と、ビーがスネたように言うと、フライはフンっと鼻で笑って高度を上げた。

「エンジン全開だ!あと10分でつく。」

そういうフライはどこか楽しげで、ビーは小首をかしげながら愛車のシフトをチェンジして、爆音とともに気合を入れなおすのだった。

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フライの目測通り、10分ちょうどに森の中の町に到着したビーは、
町の外壁の前に立って、その「町」と呼ぶには小さすぎる町を見つめた。(実際には目の前には外壁しかないのだが)

実は先ほど、徒歩で外壁を1周してみたのだが、5分も経たないうちに元の場所に戻ってきたのだ。
その際に外壁に見たのは、町の「顔」である出入り口用の門が一つだけだった。

門の周辺には、土が盛り上がった所がいくつかあり、花が手向けられていた。
門自体は貧相なもので、「町の顔」というにはあまりにも雑で、痛々しいほどに老朽化が進んでいた。

ビーはTigerを手で押して、再び門の前に立つと、肩に乗るフライを見て「行くぞ」と呟くように言った。

門は、取り付けられた鉄製の鐘を鳴らして、中にいる人に来客を知らせる仕組みになっていた。
鉄製の鐘は思ったよりも音が大きく、鼓膜を破りそうな勢いで激しく揺れた。

フライもビーも、目を丸くして思わず己の心臓が動いていることを確かめたのだった。


中から出てきたのは、顔の半分以上を布で覆った、細身の男だった。
男は眼光を走らせ、2人を品定めでもするような目つきで見ていた。

「どこの国から」

そう、たったひとことだけ男は言うと、少し目を細めてビーの答えを待った。

「旅をしている。」

そっけない男の質問に相応しい回答だ。
そうフライは思った。

もっとも、これまでビーはまともにフライ以外の生物と話をした事がないのであるが、それは「言葉」というものを知らない生物が多い町で、生まれ育ったからである。

「出身がないのか?」

男は再び口を開いた。
今度は、先程よりゆっくりとしていて、心なしか穏やかな口調だった。


「正確には、覚えていない。だが出身は東の国だと聞いている。」

そう答えたビーに、警戒心を解いたように、顔を覆っていた布をとりさった。
男は精悍な顔立ちをしていたが、首元に大きな痣があった。

男の名前はロウ・ルーフェンと言った。
ロウは、ビーと、そしてフライを町の中へ招き入れると、この町のことを知りたいと言ったビーに、
町の長から聞くといいと言う情報を教えてくれた。


町の内部は、外から見たのと大して変わりはなく、こぢんまりとしていた。

「町の宿屋は何処にある?できれば安くていい所がいい。」

ビーは自らのゴーグルを額に当てながら、ロウに尋ねた。

「コレの問題かい?」

ロウは苦笑いを浮かべながら右手の人差し指と親指で輪を作って見せると、目をくるりと動かした。


「いい所がある。あとで紹介するよ。でもまず、町長に挨拶しておこう。・・・大丈夫さ、とってもいい人なんだ。」

ロウはころころと表情を変えながら、町長がどんなに凄い人なのかということを、話して聞かせた。

正直に言ってしまうと、ビーはそれらの話に一切の興味も湧かなかった。それ故に、たった数分先の町長の家までが果てしなく遠く感じたのであった。

「ここが町長の家だよ。ゆっくりはなしてくるといい。俺はここで待っているよ。」


「どこか、別の場所へ行ってくれて構わないぞ」
ビーは密かに眉根を寄せると、押し殺したような声で言った。

「だって、宿屋を案内するんだろ?」

ロウはどこまでも純粋らしく、ビーを見つめてにっこりと微笑んだ。・・・のだが、ビーは深くため息をついて、足早に家の中へと消えていった。

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町長の住まいは、外から見たよりもだいぶ広かった。
外見は町の中にある平民の家との大差はなかったのだが、中はかなり広々としていて、家具は少なかった。

玄関からちょうど右側に、奥に向かって3つ部屋があり、そのうちの一つは扉が壊れかけていた。
左側には倉庫のような部屋があり、中は確認できなかったが、かなり広いと推測した。

正面には低い階段があり、一番上の段から、ちらりと動くものが見えた。どうやら奥に町長がいるらしい。

ビーは首を右に傾け、すこし息を吐くと、意を決したように階段を上った。


「ようこそお越し下さいました。」

しゃがれた声で、町長はそういった。
顔には、ロウと同じく布が巻かれてあって、半分以上は見えないようになっていた。

ビーはフライをなでながら一礼すると、まっすぐに町長を見据えた。

その様子に町長は笑って、「どうぞおかけ下さい」と近くにあった椅子を指差した。

ビーが椅子に座るのを見届けてから、町長はゆっくりと話をはじめた。

「ロウが旅人を入れるのは珍しいことです。あなたたちは、なぜこの町に?このように何もないところですることなどないように思われますが・・・。」

「安心しろ。俺たちの目的は燃料補給と、町の様子を知りたい。それだけだ。」


「・・・なるほど。ではご出身はどとちらで?」


「さっきも聞かれたよ。あの、ロウってやつに。なぜこの町の者は、皆一様に出身を知りたがる?」


「・・・ロウがあなたたちを迎え入れたのです。疑って申し訳ない。では、これからは疑いはナシでお互い話し合いましょう。」

そういうと町長は顔に巻かれた布をとりさると、苦々しい顔でビーを見つめた。
顔には、ロウと同じく大きなあざがあった。

「申し遅れました。私はリューフェ・ウルフェンといいます。ご存知の通り、この町の長をしております。」

「俺はビーだ。こいつはフライ。」


「どちらのハーフです?」

ビーはその質問の答えに、一瞬でしぶって、ようやく口を開いた。

「俺は犬と蜂だ。フライは・・・鳥と何かの昆虫だったな。」

その答えに、実は驚いたのはフライのほうだった。
フライは、ビーの放ったでたらめな答えに一瞬困惑して、なぜビーが嘘をついたのか悟った。

第一路後半に続く


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