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Novel
序章:The world of start
世界がこんな風になってしまったのは、いつのころだったか。
きっと、今、現存する生物の中で、そのことをしっかりとした自らの意思で理解している人間は、いないだろう。

もう、人間はいないこの世界
はじまりはいつだったか、そう、たった一人の天才による世界的発明からだった。

今、この地球は、「人間」が支配していたころの時代とは遥か遠く。しかし確実に「人間」がいたという事実が、はっきりと分かるほどの未来。

Half(ハーフ)とよばれる、動物と動物のあいの子が、世界の99.9%を占める。見た目が人間で、中身が獣と化した者もいれば、
頭は良いが見た目は獣そのものという者もいる。

もちろん、獣だけではなく、虫や魚類なども同じで、この世に存在する全ての生物が、この「Half」である。

純潔からなる生物は、この世の0.1%にも満たない。
「人間」が地球から姿を消した、そもそもの原因だった。


そよ風に吹かれて、丘に座る青年が一人。
顔はまだ幼い。年は18か19、人間で言うとそんなところだろうか。
彼もまた、この世界の始まりを意味もなく考えているのだった。

傍らには、小奇麗に整備されたバイクが1台と、青年の肩に我が物顔でのっかっている白い鳥以外には何もない。
青年は顔の半分を、バイクのヘルメット代わりであろうその分厚い帽子で隠していて、額には大きなゴーグルがあてられている。

青年は大きく1回息を吸うと、だだっ広い草はらにごろんと寝転がって、手足を伸ばした。
その際に肩に乗っていた大きな鳥が、驚いたように2,3回羽をバタつかせていた。

「・・・・なぁ、フライ。俺たちって、なんで生まれてきたんだろうな・・・」

そっと呟くように放たれた言葉を聞き洩らす事もなく、「フライ」とよばれた鳥が、言葉を返した。

「・・またその話か。いいか、それが分からないから、俺たちは旅してんだ。何回も同じこと聞くなよ。」


「俺、そんなに何回も同じこと言ったっけ?」


「言った。で、やっぱりお前はバカだ。ビー」

フライが放った言葉に少しむっとしたように眉根を寄せて、青年が反論した。どうやら青年は「ビー」というらしい。


「なんでだよ。確かに俺は、人間の血が入ってるお前に比べりゃ頭は悪いけどさ。」


「そういうことじゃねぇよ。根っこの問題なんだ。」

フライは少し得意げにそういうと、くちばしでビーの頭をこつんと一度こづいた。

「イテッ!・・・ふぅ〜ん、そうなんかねぇ」

ビーはそういうと、大きく息を吐いて、「難しくてよく分かんねぇ」と付け足すと、静かに目を閉じた。

春先の暖かくなった風が、彼らの体をなでるように吹き抜けて、そこには1枚、大きな白い羽が、ふわりふわりと舞っているのだった。


****************************************************************

「あと何キロぐらいで着きそうなんだ?」

愛車のTigerのエンジン音を響かせて、ビーはただ真っ白な草はらを駆け抜けていた。

季節はフユ。「ユキ」と呼ばれる真っ白な冷たい粒が、荒廃した地面を一面銀世界に変えていた。

北へ向かうビーは、愛車を走らせながら太陽を右に浴びて、ユキに反射した光が目にしみる。

ビーはゴーグルをしたままの状態で、2,3度瞬きをすると、右上を目だけで見上げた。
空には、大きな白い鳥が1羽。羽を大きく広げ、北に向かって優雅に飛んでいた。


「なぁ、フライ!聞こえてるんだろ?答えろよ!」

ビーは少しスピードを落として、空を舞うフライを恨めしそうに眺めた。
フライは一度高く上空へ行くと、今度は降下しながら羽を激しくばたつかせた。
その際に羽はどこえやらたくさん飛んでいって、フライの身体を覆っていたものは、明らかになくなった。

ビーと、ビーの足先からほんの数メートルのところで、フライはうしろにゆっくりと回転しながら着地した。

そこには、さきほど空にいた優雅な鳥の姿はない。
目の前にはただ、眩しいほどに真っ白な髪と、神々しいほどに金色の瞳を持った、
「人間」の姿をした青年が一人いるだけである。

青年は面倒くさそうに首を左右に振ると、言った。

「俺はこの姿は嫌いなんだ。いい加減、俺のスピードについて来いよ。」

その青年の放つ言葉に、少しも驚いた様子を見せないビーは、申しわけなさそうに眉根を寄せて言った。

「スピードは問題じゃないよ。シフトチェンジすればいいんだから。問題は、フライが自由すぎること。OK?」


「そりゃ、しょうがねぇよ。俺は鳥人間なんだからな?」

真っ白な青年、もとい、人間の姿をしたフライは、悪びれもせずにTigerの後部座席に座った。

「休息がとりたいなら、そう言えつっつーの。」

「あぁ!!そこは荷物がおいてあるだろ!?勝手に座るなよ!」

ビーは慌てたようにフライを押しのけると、茶色く変色した、もとは白いバッグだったであろうものを、
大切そうに抱えた。どうやら本題を忘れているらしい。

「そんなに大事なもんなら、俺が人間になる前に別の場所にしまっとけ。いっとくが俺は、この姿じゃ飛べないんだからな。」


「・・・・知ってるよ」

ビーは複雑な顔をしてTigerにまたがると、後ろのフライをちらと見やって、エンジン全開で走りだした。


「で?ホントは聞こえてたんだろ?」

先ほどのやり取りを終えてほんの数分もしたころ、ビーは思い出したようにフライに言った。

「あぁ!?何が!?」

風に煽られているためか、ビーの声が聞こえずらいとでも言うように、フライは挑発的に聞き返した。

「だぁから!この先に小さい街があるって言ってただろ!?その町まであとどれくらいでつくのかって話しだよ!」


「あ〜、アレな。ワリィ、アレ見間違いかもしんねぇわ。」


「は!?」


「いや、だってよ。お前があんまり呼ぶもんだから。俺だって空からチラッと見えただけだぜ?」

フライは言いながら、ビーの鋭い視線から目をそらして、弁解をするように口をとがらせていった。

「おい・・・こんなとこまで来て、イマサラ見間違いでした、はねぇだろ・・・」


「・・・うるせぇ!俺は悪くねぇかんな!」

フライはとうとうビーの鋭い問い詰めから逃げるように、両手を大きく広げて、一度だけ大きく腕を動かした。
それが合図だとでも言うように、とたんにフライの身体は羽で覆われて、大きく白い鳥へと変化した。

「ちっ、便利なやつ。」

ビーはひととおりフライの愚痴をつぶやくと、気合を入れなおしてハンドルを握った。

向かう先は、北にある小さな町
                ・・・
「人間」の「DNA」から創られた、見た目は「人間」のHalfが住まう町である。

フライもビーも、まだこの確固たる事実を知らないでいるのであった。


序章:The world of start 〜終〜



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