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第一分室 参
いつか還りたい場所A
「…アッシュ?」

ふと、ナタリアの声が聞こえたような気がして、アッシュは周囲を見回した。
黄昏の光の中、見えるのは家路を急ぐ人々の姿のみ。

ナタリアを想う気持ちが聴かせた幻聴だったのだろうか?
…幻聴を聞くほどなのかと、そんな自分に呆れたように舌打ちをし、 アッシュは戻ろうと踵を返した。

「…アッシュ!聞こえませんの?」
再び聞こえるナタリアの声に、思わずため息をつきそうになる。

そのまま立ち去ろうとしたのだか、目の前に影が差し、アッシュはようやく顔を上げた。

「ナタ…リア?」
先程から聞こえていたのは幻聴などではなかった。
偶然の再会に、思わず緩みそうになる表情を隠すために、アッシュは殊更憮然とした表情を作る。

しかし、沸き上がる喜びを完全に隠しきるのは難しいのか、ナタリアを見つめる瞳は普段は見られないくらいに穏やかだった。

「…何故、ここにいる?」「それは此方の台詞ですわ。
…でも、お元気そうで何よりです。アッシュ。」

ナタリアと会えるなんて、それこそ思ってもいない。
ナタリアがルークと行動を共にしている以上、アッシュの方からナタリアの所在を知ることはできないこともない。

しかし、今回は連絡をしていない。
アッシュはアッシュで所用でこの街に立ち寄り―
ナタリアたちも、そこに立ち寄っていた。

全くの偶然だったのた。

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