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第三分室
蝕 1
月が欠けはじめた。
満月が縁の方から徐々に細くなっていく。
ゆっくりと、時間をかけて。
やがて月は完全に見えなくなり、かわりに紅くほのかな光を放ち始めた。
紅い月光が大地を、この星を照らしている。

「紅い…月。なんだか気味が悪いね…」
「紅い?」
太公望は普賢の声につられて、外を見た。
まるい、赤い月。
月であることにはかわりないのだが、いつもと違って見えるのが不思議だ。
「こんな日は、早く寝てしまったほうがいい…」
まるで呪われているかのような紅い、禍々しいような光を放つ月。
それを眺めながら普賢はそう言うと、太公望の方に視線を向けた。
「あれ…?」
振り返った普賢に覗き込まれて、太公望はたじろいた。
「望ちゃんの瞳…紅かったっけ?」
普賢の双眸が、不思議そうに太公望を見つめている。
「月と同じ色だね…」
本当は、太公望の瞳に月が映っているだけなのだが、本当に紅い瞳をしているように見える。
「わしの目が紅くないことは知ってるであろう?
…わしはもう寝るからな」
「うん。おやすみ、望ちゃん」



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あきゅろす。
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