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第三分室
立ち待ち月 2
しかし、今宵妲己が向かったのは、太公望が捕われている地下牢。

牢の前には牢番がいた。
牢番も、近付いてくる妲己に気付いたらしい。
職務熱心なのか、しっかりと牢の前に立ち塞がっている。
このまま『誘惑の術』で彼を操り、鍵を開けてもらうこともできた。
しかし、それでは彼女が深夜に抜け出していることを周囲に気付かせてしまうことにもなりかねない。
…今はまだ、そのときではない。
そうなると、とるべき行動はひとつ。
太公望のいる牢の見張りは妲己の手によって永遠の眠りを与えられた。
まさに一瞬の出来事。
己の身に何があったのかを認識する間もなく、彼は黄泉路を急ぐ。
哀れな見張りから鍵を奪うと、それきり彼女は見向きもしなかった。

鍵を開けて、そっと中に入る。
立ち待ち月が牢内を照らしている。
銀色の光が差し込む牢内は、わずかに明るかった。

わずかな光をたよりに、妲己は太公望の姿を探す。
太公望は、窓の近くに倒れていた。
意識を失っているらしく、ぴくりとも動かない。

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