第三分室 雪降る日にC 「…とにかく、寒いと降るものなのだな」 「そうだね」 雪は降っているときもそうだが、降る前が特に冷え込む。 厳しい冷え込みが、雪が降ることを予感させる。 太公望は普賢の隣に移動し、窓から空を見上げた。 空を見上げながら、ぽつりとつぶやく。 「こうして雪が降っても、移動しなくてもいいというのはいいことだな」 「移動?」 『雪』と『移動』という言葉が結び付かず、普賢は怪訝そうに太公望を見た。 その様子に、太公望は苦笑を浮かべる。 普賢は定住民族の出身なのだろう。 それならわからないのも無理はない。 「わしらにとって、雪は移動の合図であったからのう」 太公望は遊牧民族の出身である。 太公望が呂望と呼ばれていた頃。 雪は移動の合図だった。 寒さが厳しくなり、雪が降る。 雪が降ると羊たちのえさとなる草がなくなるので、草地を求めて移動をするのだ。 [前へ][次へ] [戻る] |