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妖怪パロ あやかしあやし
20000Hit柘榴様リク 「こいこい」 富食
とある日のとある昼下がり。
授業も終わった放課後、屋根の上でとある二人はのんびりと過ごしていた。

富松作兵衛と食満留三郎である。

二人はほのぼのとしながら、屋根の上で花札をしていた。

「すまん三光」
半分あきらめた顔で札を見る作兵衛に謝りながら留三郎が自分の札を出す。
松に鶴、芒に月、桜に幕があった。

「あぁーっもうまた負けた!先輩強すぎです!」
作兵衛が札を空中に投げ捨てる。
その札は途中で止まるとふわりと浮いて山札に戻る。

二人が、というか作兵衛にこいこいを続行する意思があるか確かめる花札たち。
顔の周囲をくるくると回る彼らに作兵衛は手を振って続きは流れる。

「まあ、これで先輩に挑むなんて馬鹿かもしれませんけど、絶対に勝ちますからね!」
作兵衛はそういって、顔の周囲を回る札の一枚を取って突きつけた。
そこまで決めておいて、留三郎が黙ったままでいると、作兵衛の顔が蒼くなっていく。


まさか、気を損ねたとか?いや、そりゃそうだよな。
だっていくら妖怪とはいえ一介の後輩風情に勝ちますって宣言されて気をそこねねぇ人なんているか?
あぁっ、まさか俺のこと面倒な奴とか思ったんじゃぁ!


作兵衛の脳内はいつも留三郎の事に関しては変に爆走している。
そんな彼を留三郎が笑ってなだめるのが当たり前になってきていた。

「そうだな、時間はたっぷりあるしなぁ。というか俺の札は作兵衛の事が好きな奴ばっかりだからなぁ」
鳥関連は鶴以外全部お前のところに行っちまうから、大変だよ。

と留三郎は言った。
その言葉に慌てるのは花札達だった。
それぞれが身を震わせ、そんなことはないと弁解をはかる。
この花札たちには意思があった。そしてこの花札は留三郎の力そのものでもあった。

柳に燕、薄に雁、桐に鳳凰。
風を使う鵺である作兵衛と鳥の花札達は相性が良いらしく彼の手札に来ることは滅多にない。

お陰で留三郎は他の級友たちとやる花札では毎回のように見ている五光を、彼相手の時は一度も見ていない。
鳳凰が毎回というほど作兵衛の手元にあるからだ。
だから留三郎は作兵衛とやる花札が大好きだった。
面白いからだ。
いままで、留三郎から花札で勝ちを拾っていったのは小平太が一度、仙蔵が二度ほどだ。
しかも仙蔵にいたっては、留三郎が手札で手違いを起こし、雨流しと霧流しによって手札の役がぱぁになった時だけだ。

文次朗と伊作にいたっては、戦歴が可哀そうなほどなので伏せておこう。

そんな中留三郎と作兵衛の花札の戦歴は七対三。
他の誰よりも強いのだ。
まあ、この留三郎の力がのった花札に限るのだが。

それは、それだけ留三郎が作兵衛の事を安心して信頼しているかにつながるのだとは誰も知らないのだが。

いつか、このまま一緒にいたら、自分が負け越すこともあるのではないかと思った。

「時間はって・・・そりゃ俺にゃあ腐るほどありやすが、貴方には・・・」
「俺が死ぬまでだって、あと十年以上はあるだろ?」

留三郎はぽつりと呟いた。
俺はお前と添い遂げる覚悟をしたんだからな、と。
その顔は耳まで真っ赤で、そんな彼をみた作兵衛ははぁ!?と驚きの声を上げてしまった。

「な、なんなんすか!?そ、そそそ添い遂げるって!!?」
「なっ・・・お前がいったんだろーが!」
「え、お、俺そんなこと!」
「一生を共にする勇気があるかって聞いただろうーがっ!」
それをきいて作兵衛も顔を林檎のように真っ赤にさせた。

「あ、あれはっ!そ、そういう意味じゃっ・・・」
「なかったっていうのかよ・・・」
留三郎の瞳が半分悲しみにもう半分が怒りに染まった。
作兵衛は火照る顔をそのままに顔を背けると照れくさそうに頬をかいた。

「いえ・・・その・・・だって、先輩は人間、ですから・・・」

俺はアンタに一生憑いていくつもりでしたけど。
俺はアンタの一生をもらう訳にはいかなかったから・・・。

「先輩だって、その・・・後継ぎとか、欲しいでしょう?」
照れくさそうにこちらを窺う作兵衛は愛らしく、この間の男前はどこへやったと叫びたいほどだった。


留三郎さんが俺を好きなのも一時の気の迷いかもしれないし。
世継を俺は作れないから。だから俺は留三郎さんの一生を貰うわけにはいきやせんよ。


作兵衛は眉を下げて笑った。
顔にはきっちり、アンタの全てが欲しいと書いてあった。
留三郎はそんな作兵衛の体に抱きついた。
彼の体が留三郎の体を押さえきれるはずもなく、二人は屋根瓦の上に倒れこんだ。
留三郎は顔を上げて、彼を押し倒した状態ではっきりと言い切った。

「俺の全部を盗っていっちまった癖に今さらんなこというな、ばぁーか」
白い歯を見せて笑う彼の頬は太陽の影になっていてもまだ赤い。
たぶん、自分の顔もだ、と作兵衛は思った。

作兵衛はその言葉に、留三郎の全ての意思を感じとり、眉をきっとあげると真赤な顔のまま彼の頬に接吻を贈った。

「せ、責任はとりやすっっ・・・!!」

赤面しすぎて眼尻に涙が映る作兵衛は留三郎の心を刺激したようで。

「可愛いぞ、作っっ!」
「どぉうわぁぁああっ!」

勢いをつけすぎた留三郎のせいで屋根瓦から二人して落ちる羽目になったが、風で地面への体当たりを免れたのもご愛敬ということで。




そして二人の一生が永遠に続くことになるのは、また別のはなし。



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20000ヒットリクエスト、柘榴様に捧げます。

アイスの上に砂糖を振りかけたような甘さを目指しましたが、上手くいっていますでしょうか?

やっぱり男前な富松も好きですが、留さんを前に真っ赤になって慌てる富松がスタンダードではと初心に帰って書いてみました。

リクエストありがとうございました!


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