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妖怪パロ あやかしあやし
陸拾玖 犬神、自らを吐露する事を決意す
犬神は走っていた。
ひたすらに走っていた。

空中に残る、三木ヱ門の残り香をたどって。

姿は、先ほどまでと変わっていなかった。

森の中にいれば、同化するような深い常盤の緑。
その水干を纏い、裸足で地を蹴り上げる。
伸びた黒い爪が鉤爪の役割を果たす。
えぐり取られたかのような彼の足跡は、獣にも似ていたがソレとはまったく違っていた。
このように土をえぐり取るほど強く踏み込む獣はきっと人間は知らない。

彼等はこの足跡を見たならば、きっと怪物か妖怪変化が出たのだというのだろう。
間違ってはいない。
ただ、本当に現実の妖怪がつけた足跡だというだけだ。

ぴんと立った漆黒の耳は周囲を警戒し、彼の声を逃さない。
首元で揺れる勾玉が走る犬神の怒りを示すかの様に赤く発光していた。
光の色はとても不気味で、神の怒りにふさわしいといえるだろう。

早急に三木ヱ門も探し出し、三郎と雷蔵の手助けにいかねばなるまい。
それから自分が学園を出た後に、兵力を集めてから出るといった仙蔵らとも合流せねば。

やることは山積みだった。
その山を切り崩すきっかけはまさしく今にあった。

「無事でいろよ、三木・・・っ」

彼の名前を口にすると同時に怒りと力がわいてくる。

彼を襲った妖怪に対しての怒り。
彼と彼の心を守れなかった自分への怒り。

それら全てが今文次郎にとって良きに作用していた。
怒りに我を忘れることはなく、冷静に冷酷に、三木ヱ門は大丈夫なのだと自分に暗示をかけて。

彼はただひた走った。
間違いなく三木ヱ門がいる場所にめがけて。

自分は泣いた彼を見たいんじゃない。

自分が見たかったのは、故郷を荒地にされ呆然とする彼ではない。
少年に責められ嘆く彼でもない。
得体の知れないものに追いかけられ恐怖する彼でも、泣きじゃくる彼でもない。

「俺が見たいのは、笑ったアイツだ・・・っ!」
コレが終わったら全て話そう。
自分が人間ではないことも、自分が学園に来た理由も。
それから三木ヱ門の虐めの原因も、この里を荒野にした犯人も。

こうしてみると自分は本当に三木ヱ門に迷惑ばかりをかけている。

そしてそれに見てみぬふりをしてきた。
それはもう辞めよう。

どんなに怒られたっていい。殴られてもいい。
それでアイツの不安がぬぐえるのならば、喜んで殴られようと思った。

たった一つ、自分の気持ち以外を除いて全てを話そうと。

それで少しでも三木ヱ門の気持ちが晴れて、笑ってくれたならば良いと勝手に都合の良いように考えた。

自分の隣でなくてもいいから、笑っていて欲しい。
そう思ったのだ。

むしろ、離したら自分は学園から出て行く事もあるかもしれない。
文次郎は考えた。

学園の授業は興味深いし、近くにいる人間たちも良い奴等ばかりだ。
だからなおさら学園にいてはいけないと思った。
自分は犬神。不幸を呼びこむ禍つ神だ。

三木ヱ門の傍にいたら、今度こそ彼を殺してしまうかもしれないと焦っていた。
自分がそこそこに気に入っていた人間も、酷い有様で死んでいった。
もちろん自分を呪いながらだ。

その人間の何十倍もの愛情を持っている彼にこれ以上の不幸が降りかかることを良しと出来なかった。
自分の思いも、これでおしまいにしようと。

三木ヱ門への償いはしきれないが、この命で償うしかないだろう。

「この命だけで足りればいいがな・・・」
自嘲めいた笑みを浮かべて、それでも今は彼を救うのだと、足を動かした。

えぐれた土は先ほどより深く、彼の決意と罪をあらわしているかのようだった。


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