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妖怪パロ あやかしあやし
伍拾捌 三木ヱ門、荒れた里に絶句す
天空に、琴の星座、織姫星が輝いた夜を越えたのち三木ヱ門は里を一望できる場所にいた。

正確には里を一望できた、今は名もなき荒野を見て声も出させずにいた。
その荒野はとりあえず前夜に走り回った犬神達のお陰で火柱は上がってなかった。

しかし、どんなに頑張ってもこの村の跡を残すことは出来やしなかった。
村の柱その一欠片すら残しておけばそれを火種にあの人力で消えぬ火が上がるからだ。
何度もあの火柱を消す労力は残っていなかった彼らは、これは仕方なしと一晩かけて村の燃えるもの全てを破壊しつくしたのだ。

結果、村は既に何もない荒野と化してしまったのだ。
近くにあった湖すら火柱のせいで半分以上干上がっていたのだ。
三木ヱ門の記憶にある里は何もないのだろう。


「琴の星は、愚者の星。愚か者は一体誰だったんだか…」
大樹の上から三木ヱ門を見つめる三対の瞳のうち一つが呟いた。
昨夜異様に光っていた凶星を思い出す。
其れに答える言葉はない。残りは静かに三木ヱ門と荒れ地を見ていた。

既に三人とも人型をとれるほどの氣を残しておらず、耳が出ていたり尾がでていたりする。
三木ヱ門を慰めたいが、その言葉も分からないし、彼の前に出ていける姿にもなれないのだ。

顔はいつもどおりだが三郎と雷蔵には茶色の耳と太い狸の尾が。
文次郎には黒い犬の耳と犬のそれと比べると長くて太い尾がある。

しばらく休憩をして体力回復に努めないと三木ヱ門の前に出れるような姿にはなれない。
故に今は大樹の枝の上で気配を消しているのだ。
気配を消しているというより、人には感じ取りにくい妖氣しか出していないと言ったところか。
三木ヱ門は一切こちらに気づいていない。
そのまま彼はどうするかとしばし様子を見ていたのだ。
そこへこの間あったあの光がない少年が来たのだ。

「兄ちゃん、なにしに来たの?」
「お前・・・・里はっ・・・なんでっ!」
三木ヱ門が少年に問い詰めたが、少年は答えることなく彼を罵った。


「嘘つき」


その言葉を聞いた瞬間三木ヱ門の体が強張る。

「兄ちゃんの嘘つき」
その目から光が生み出される事はなかった。
静かに、全てに絶望した顔で呟く。
その瞳には三木ヱ門が確かに入っていて、その先を聞かずに逃げるのを逃さなかった。

「助けてくれるっていったのに」

いつか、彼は言っていた。犬神は樹の上で瞳を閉じる。


「その為に忍者になるって」

そう、自分を拾って育ててくれた両親や里の為に忍者になるのだと。
彼はここに来る前までは髪の毛に対しての劣等感は少ししかなかった。
無いというわけではなかったが、それでも里のみんなが普通に接していてくれたから其処までじゃなかった。
黒髪にどうしてもしたかったり、えぐりだしたくなったりはしなかった。
そこまでの気持ちは学校に来て目の前で不気味だ、異人だと叫ばれてからだ、と。
優しい人たちの為に忍になって活躍して、両親や里に仕送りをするんだと。


「なのに、来てくれなかった」


そう、すでにその里はないのだ。
もう、優しく三木ヱ門を受け止めてくれる人も、受け止めてくれる里もない。
文次郎は歯をぎりりと鳴らす。
仕方がない。仕方がない。火柱を止めるにはそれしかなかった。
火柱を消さなければ、これから先どんな人間が巻き込まれるかわかったもんじゃなかった。
もちろん、三木ヱ門を含めて。
彼の命と、彼の心の拠り所を天秤に掛けて、彼の命がある天秤皿に理性と他の命を無理やり乗せて傾けた。

そして彼の拠り所を切り捨てたのだ。

「兄ちゃんの 嘘つき」

少年はそれだけを繰り返す。
嘘つき、来てくれなかった。助けてっていったのに。
どれも三木ヱ門の心を抉るのには丁度良い。

三木ヱ門は口を開閉させて何か言おうとしてどれも言い訳にしかならないことに気がつくと、その場から逃げ出した。

耐えきれなくて逃げ出した。
文次郎はそれを追おうとしたが、部下二人に阻まれる。


まだ、彼の前に出れないだろう、と。
確かにこの妖怪の姿で彼の前に出たところで混乱させてしまうだけだった。

文次郎は気をもぐばかり。行って抱きしめて、仕方がなかったんだと言ってやりたかった。
アイツを安心させてやりたかった。
誰よりも、アイツの涙を見たくなかったからだ。

自分の不甲斐なさと嘆いた狼の遠吠えは寂しく響く。

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あきゅろす。
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