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妖怪パロ あやかしあやし
13000hit彰人様リク 城の役目
それは彼らが学園にくるより早く、黒狐が暴走した新月よりは遅い日の事。

日の出国のどこかにある、深い森の奥。
霧を纏ったその不可思議な町は狐の町。

そこは、奈何せん普通ではない場所。
鏡の向こう側、岸の対岸。
ここであって、ここでない場所。
見えないのにそこに存在し、存在しないのに見えるもの。
つまりは妖怪の町。

赤い柱と屋根は、彼らの先祖が海の向こうから持ってきたもの。
この街を納めるように言い遣った狐は、政務というなの雑務の殆どを新たに部下にした狐にやらせていた。

この赤い柱がある屋根の最上階。
妖狐の町が一つであるここを治める狐。
正確にはすでに狐ではなく、神の末席にあたる白沢なのだが、
彼の部屋から背を向けた位置にある新入りの部屋。

その部屋の前で、喜八郎は直立不動のままいた。

さて、何故こんなことになってしまったかといえば
それは黒狐であり部屋の中にいるはずの人物が暴走したのがきっかけであった。
喜八郎を助けるために万の人の血を浴び黒狐になったもの。
彼は黒狐の力に耐えていたつもりだろうが、
狐の里にいる一族の重鎮たちにより監禁封印を命じられた。
それを彼は嫌とは言わずに黙ってうけいれた。
監禁は彼の鎖となっていた言霊を錆びさせる原因となった。
「兵助」と呼ばれ続けていたことで耐えていた理性の糸は新月の夜に切れた。
そして今はいないこの町の主人が兵助を止めここへ連れてきた。
自分が面倒を見るといい、一族の重鎮を諫めて、だ。

二度も助けられてしまっては兵助としても彼の言う事を聞くほかない。
彼はあまりにも義理人情に厚かったのだ。

二度、助けられた恩に報いるために彼は今喜八郎が立っている扉の向こう側で
必死に事務処理をしているのだろう。

今は白択、仙蔵の名代という形だが数年後にそれが当たり前になってしまうことを
彼はきっと思ってもいないだろう。

『仙蔵さん、兵助さんにここの政務押しつける気満々だよね』

そんな考えをよそに、部屋の中からは黙々と書類を整理する音が聞こえてくる。
喜八郎はため息をひとつつくと、一言入りますと声を掛けて中に入る。

兵助は一度顔をあげて喜八郎に笑いかける。
それだけで彼の鼓動は早くなってしまう。
兵助の笑顔は喜八郎という狐の心臓を早くするほどの威力があるのだ。

その笑顔にどうにかぎこちない笑顔で答えて持ってきていたお茶を彼の机に置いた。

そしてそのまま笑顔で部屋を退室する。

失礼します。と言葉を紡いで扉をしめて安堵する。
彼が近くにいて生活するようになってから、どうにも彼を意識してしまう。

確かに好きだという感情はあったけれど、いやあるからこそ余計に意識してしまう。
彼に迷惑をかけていないだろうか。
彼の役には立てているだろうか。
それだけの事に不安になって頭の中を支配する。
気がつくと、屋敷の中庭から裏へと来てしまっていた。

ここは狐の村でも特に変わり者が多い村。
逆にいえば他の村で追い出された問題児ばかり。
仙蔵の奔放さと力にあこがれて集まってきたものたちばかりなのだ。

故に、突如この村に来た仙蔵のお気に入り。
兵助をよく思っていないものが沢山いる。
だから仙蔵は兵助に事務を任せ部屋から出さないようにしている。

結果、どうなるかといえば・・・。

「・・・・僕に回ってくるってことだよね」
喜八郎は目の前にいる妖狐に溜息をついた。

兵助に直接手を出せないと思えば、兵助が大事にしていると噂の喜八郎に
手を出してくるのは予想の範疇だ。

喜八郎はこのことを兵助に言ってはいない。
心配は掛けたくないし何より。

「言うほどのものでもないし・・・ね」

喜八郎の言葉に周りに集まってきた妖狐たちは怒りをあらわにする。

「いうじゃねーか」
「長壁姫は攻撃できねーんだろ?」

よくご存じで、と心の中で呟いた。

「攻撃できない妖相手に集団でかかるんだ」
その代り、もっと相手を怒らせる一言を放り投げた。

「てめぇ!」
「やっぱアイツの部下はむかつく」
「とっととここから出ていけよ!」

そういって、狐の特徴でもある鋭い爪をきらめかせ
高く体を飛びあがらせて喜八郎を襲う。

八方から襲われて逃げ道はない。
喜八郎は足を動かさずその場に立つ。

そして力を集め言祝ぐ
「我が体はみはかしが鞘北斗が城、花鳥に紫雲の長城を築かん」

喜八郎の周囲に紫色の光が集まる。
その姿は飛びまわる小鳥にも、舞い散る花びらにも見えた。

「築城 月下」

それらは一瞬のうちに壁を形成し、襲ってきた狐たちをはじき返した。

「はっ!やるじゃねえか」
狐たちはそれだけでは引かない。
同時攻撃が駄目だと悟ると、連携攻撃へと変えてくる。
相手には攻撃が出来ない。
そう信じた上での突撃だった。

数秒の遅れを生じさせたうえでの攻撃が連なる。

喜八郎は黙ったまま、瞳を閉じて集中する。

上、右、左、右下、左上、下、下、上、右上、左下、左、右、右。

頭の中で狐の位置を一瞬で察知する。
そして紫の光は喜八郎を守るかの様にその位置に瞬時に壁を作る。

北に輝く星を守るために、夜咲くことを選んだ華のごとく。

鞘は剣の外側。外壁。刃が他を傷つけ、尚且刃こぼれしないように双方を守るもの。
北斗を守ると決めた意志の城は誰よりも堅固である。

「檻城 合歓」

一度柏手を打ち右手を少し上げてから握り、左の掌に撃ち落とす。
同時に数匹の狐の周りに棒状の柱がせり上がる。
それは正しく檻に近しい。
柱は徐々に傾き、眠りを促すかの様に狐の上で頭同士を重ね合わせる。
見事な檻の完成である。
柱はそこから倒れる事も、距離を縮め狐を圧迫死させることもできないが、
行動は封じることができる。

それを見た他の狐たちは分が悪いと踵を返そうとするが、喜八郎はそれを許さない。

「迷城 山吹」
喜八郎が掌を大地に当てると、逃げていた狐の周りにいくつもの壁が立ちふさがる。
それらは術を当てても壊れることはなく、避けて回っているうちに喜八郎の檻につかまった。

三つほど出来た柱の檻にいる無傷の狐を見て、喜八郎は笑ってその場を去った。

「人を傷つけることが闘うことならば、僕は闘えない」

喜八郎の壁は人、命の気配を察知し回避をしてしまう。
人を巻き込んでの壁の設置は出来ない。

「でも、闘う事を止めることはできる」

相手の剣が自らの主を傷つけるのならば、相手の剣を自らの鞘で覆ってしまえばいい。
相手が戦をしかけてくるのならば、足を止め、来れないようにすればいい。

長壁姫は、城と生を共にする狐。
城は人を傷つけることはできない。

けれども人を拒むことができる。

それこそが城の最強で最大の武器。
それが長壁姫流の戦い方。


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