妖怪パロ あやかしあやし 11000HIT 弥生様リク 艶やかな紅い華 人里離れた山の奥。 人も知らず、世も知らず。 影となり、闇に蠢くものたちがいる。 立派なつくりの貴族館。 一番大きな部屋に老若男女が集っていた。 一番の上座に座るのは、白髪が混じる老人。 脇には、妙齢の女性と恐面の武人が座る。 下座にいるのは、手首を光る輪により拘束された黒髪の青年。 その後ろには、ぴんと張ったぬばたまの黒髪をもつ青年と柔らかな灰銀の髪をもつ少年。 拘束されたその青年は、名を兵助といった。 「兵助、そなた今回の不始末わかっておろうな」 中央、老人が口を開いた。 兵助は、はいと小さく頷いた。 その顔は正面を凛と見ている。 その顔と面と向かい、老人はつらつらと罪状を述べる。 「人の血を飲み過ぎてはならぬ、人の血を浴びてはならぬ。これは一族の永久不変の掟じゃ。人の影、世の闇にしか生きられぬ儂たちのな。その理由を忘れた訳ではあるまいな、兵助」 「存じております、長老」 兵助の顔にまだ影は映らない。 兵助は自らが酷い罪を犯した自覚もあるし、またそれを隠さず償いをしようと思っていた。 例えばそれが、自分の左後ろにいる灰銀の狐、喜八郎をすくうことによるとしても。 罪は罪。 兵助の貫くべき信念だった。 「我々妖狐の一族は代々、人の影にしか生きられぬのです。それ故に他の妖より人に近しい間柄。だからこそ血を浴びて黒狐となったものをそのままにはできません。力の為に人の血を浴び力を欲する欲深の狐をそのままにはできません」 長老の隣にいる女性が呟いた。 兵助は、喜八郎を助ける為に術師を含む多くの人間を殺した。 そして、それだけの人の血を浴びた。 妖にとって人の血は、力となる。 あるものにとっては自らの術を強め、あるものにとっては命を永らえさせる薬となる。 しかし、大量摂取する薬は毒となる。 血は力を呼び、その力はさらなる力を求める欲望となる。 そしてその欲は人の世を乱すことになる。 「これ迄にもいくらか黒狐が出た。その何れもが自らの力を抑えきれず自滅、もしくは粛清された。兵助、貴様も力を抑えきれぬとは言い切れまい」 兵助は武人の言葉に深く頷いた。 「そんな、兵助さんはここまで普通だったじゃないですか。抑えきれてるんではないですか?」 喜八郎が口を挟む。 喜八郎らがいた城からこの館まで、数十日。 その間、人とすれ違っても襲うこともなかったし、自分も危険な目にあうこともなかったのだから。 至っていままで通りの兵助と同じだったのだから。 兵助はゆっくりと首を降った。 「ここまで無事にこれたのは、俺が力を抑制してたからじゃない。仙蔵さんや喜八郎の言霊があったからだ」 兵助はそういうと、ちらりと喜八郎の隣に並ぶ仙蔵を見る。 ぬばたまの髪は少しも揺れず、その瞳は閉じられたままだ。 「あぁ。お前の力だけでは暴走しかねなかった。私たちが、喜八郎は無意識だったが。兵助、と名前を呼ぶことによってかろうじて意識を保っていた」 仙蔵はそこまでいうと、静かに瞳を開き言葉をつむいだ。 「故に、兵助は私たちと共に居させれば意識を保つ事ができ、力を暴走させる事もないのでは?」 長老はその言葉に耳を傾け、かつ首を横に降った。 「黒い狐は、北斗の使者。北斗は死を司る星。死の使いである黒狐にお咎めなしとはいかぬ」 長老は、兵助に百年の禁固を言い渡し姿を館奥へと消した。 兵助は、黙ってそれに従い静かに暗い洞窟へと身を置いた。 いつ力が暴走するかわからない為、兵助の檻は地下深くに設置され、面会は兵助に対しての言霊が強い喜八郎と仙蔵のみとなった。 その彼らも、地上から声をかけるのみで、檻(というより、深い穴か空井戸といった方が近しい)を隔てていて直に顔を合わせることすら出来ないのだ。 そこまでしていて、いやそれ故にと言うべきか。 地下牢に放られてから次の新月の夜。 月の力が半減し、星の力が増すその日にそれは起こった。 起こる、悲鳴。 叫ぶ、なきごえ。 崩れる、牢。 黒狐が暴走した。 皆は口々にそういっていた。 蜘蛛の子を散らしたように逃げていく妖狐の群れ。 その中で立ち止まったままなのが二人。 喜八郎と仙蔵である。 喜八郎はただ震え、仙蔵は前だけを見つめている。 その視線に捉えられたのは一つの黒。 既に結ってあった黒髪は飛び散り、自らの妖氣に当てられふわふわと空中に漂っている。 目は血を欲し、その腕は欲を満たす為に振るわれる。 それは喜八郎たちにも等しく振るわれた。 既に喜八郎か他の妖かすら見分けがつかなかったからである。 喜八郎はまだ動けない。 欲に溺れる兵助を視たまま動けない。 妖の血を欲するのか、他者を傷つけたくないと望むのか。 その時の喜八郎に兵助の真意を知ることなど出来はしなかった。 ただ、ただ。 なぜ、なんで。と。 彼に自分に問いかけるだけだった。 それでも兵助の力は暴れ続けた。 力の奔流は喜八郎たちを避けて飛び散り続けている。 すでに自分たちと同じ妖狐らは逃げおおせたようで、彼の破壊目標は家屋や手短にある木々であった。 めきめきと鈍い音を立てて崩れる木材。 自分たちの周りには自分たち以外破壊されてないものなどなかった。 随分長いこと思考を巡らせてから、喜八郎はその事実に気付く。 そしてそれが今隣にいる人物のお陰だということも。 青色の衝撃波は二人が立つ場所の一間手前で赤い華に遮られる。 ばちりと火花を散らし、空中に咲いた赤い火の華。 仙蔵が作り出した火の華は、私にふれないで、という花言葉を持つ花に良く似ていた。 「鳳扇火」 仙蔵の手で泳ぐ炎は象を作り扇となって具現する。 そのまま、それをもって舞えば炎が彼を追って踊る。 華艶炎舞(カエンエンブ) そう呼ばれた白沢に伝わる業。これを誰よりも美しく魅せるのが彼であった。 自分の業を遮られていると理解した兵助は黒い爪を伸ばし、こちらへと向かってくる。 仙蔵はくすりと笑ってそれを迎えうった。 二度と三度、扇と爪が高い音を出して重なった。 「理性を失した貴様など私の敵ではないのだよ……」 下級の術を詠唱破棄したもので十二分に勝てる。 仙蔵はそう呟いた。 冷静さを欠き、力を奮うだけの妖狐などに負けはしないという事だ。 言葉通り、仙蔵は一瞬で兵助を宙に投げ焔の檻に閉じ込める。 煌鍔姫(キラツバキ) 煌めく剣の鍔の如く輝く赤い焔は兵助の体を包みこむ。 そのまま、焔は大きな椿の華に代わる。 華はゆっくりと開き、花心に兵助をのせて。 堕ちた。 それは彼の力も意識も全てを呑み込み全てを抱いて、糸が切れる様に堕ちる。 久々知兵助。 人の血を浴びすぎたが故に死を司りし北斗七星の使いとなる。 そう記述したのは誰だったのだろうか。 「さて文次郎、私はいくぞ。今夜は戻らん。一人で枕を濡らしながら寝るといい」 「あ゛?誰が枕を濡らすかよ!せいせいするわっ!それよりお前は何処に……」 「忘れたか阿呆が。今夜は新月だ」 仙蔵の手には扇。 それを口元に笑う。 そのまま歩く姿は悠然にして優美。 毅然にして恐美。 この焔、消える事亡く燃え続け、月亡き空の太陽とならん。 ***************** 弥生様!た、大変遅くなってしまって申し訳ありませんでした! 土下座じゃすまされない勢いですね(アワアワ) 仙蔵の強さということで、こんな感じで宜しかったでしょうか? 日常要素が欠片もなくて申し訳ありません……。 あやかしの仙様が忍術学園にくる前に兵助たちの前で力を使ったのはこの一回だけです。 この後も新月の時には兵助の所にいますが、兵助が力を使いこなし始めたのと、喜八郎の力のお陰で、仙様が力を出す事態にはなっていない設定となっております。 勿論、兵助たちと出会う前、文次郎たちと一緒の時には大分力を使っています。 こんなもので宜しかったら煮るなり焼くなり好きにしてやってください! それでは、キリリクありがとうございました。 [*前へ][次へ#] |