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妖怪パロ あやかしあやし
肆拾弐 北斗降臨
銀色の蝶が城に混じる。

それらは人々の視界には入らず、ただ只舞うだけだ。

いくらか、舞った蝶は一つの扉に止まって、翅を振るわせた。
蝶はそこから動かない。
人はそこに気が付かない。

異常と正常の境目、人とヒトデナシの境界、其を知り境の向こうを知らない限り隣にある恐怖を感じとる事は出来ない。






「銀星彪紋(ギンセイヒョウモン)が止まった、武器庫だ。遠くない」

八左ヱ門が後ろにいた兵助ぬ声を掛けた。
その後ろにはまだ水がみえていて、先程の水攻めを思い出した。
首を振ってその息苦しい記憶を飛ばすと兵助の手から、紺色の蝶が飛んできた。
「丕壱紋字(オオイチモンジ)…兵助、お前」
「早く終わらせて早く帰りたいんだよ。それに久しぶりの血でウズウズしてる」

兵助の手にはいつか見た刀が握られていた。

そしてその目は既に狸二人分の報復したくて堪らない様子だった。
その昂った氣は小さな管狐の姿を変えてゆく。

「そこにいるのは誰だっ!」
不意に八左ヱ門の背中から大声が聞こえた。この城に仕える兵士のようだ。
彼は手元にあった、灯りを掲げると二人の存在に声を上げようとした。

「邪魔だ」

男の体が上下に千切れた。
体の真ん中、臓器一式を喰い千切り凄まじい速さで通過したのは一匹の青い目をした管狐だった。

「八左ヱ門、中の様子は解らないのか?」
「あぁ、鍵掛かってる。ここからは遠いから邪眼も使えないしな」
両手を挙げれば、兵助がそう言えば銀星彪紋をはじめ蝶たちに筋力というものは微塵にしか存在していなかったなと思い出した。


伝蝶 銀星彪紋。
それは八左ヱ門が扱う特殊な蝶たちの一つ。
彼自身を含め七匹の蝶は八左ヱ門が使う特殊な術に必要不可欠なものだ。
兵助もその恩恵に預かっており、彼の狐蝶と呼ばれる丕壱紋字がいなければ禁忌の力を持つ兵助はその力を暴走しかねない。

「我がみはかしに北斗の七星、風月に蒼の火影を弔へ」
兵助が手にした得物は青色に発光し、振り抜くと同時に光を放つ。
光が通った場所は切り裂かれ、触れたものは青白い高温の炎で焼き尽くされる。
先程の死体も片手を指折る前に黒い消し炭となり灰になった。
「兵助、やりすぎじゃね?」
「ひ、久しぶり過ぎて加減が解らなかった」
二人はぶち抜かれた壁の先に出た部屋と、曲者だと叫んで集まりだす兵士の群れを見ながら溜め息をついた。

「この先には絶対に行かせん!」
「貴様等の目的は呪具兵器だろう!」

呪具兵器、兵助は其を冷静な自分の頭に収めてから彼等が持っている火器を数える。

「槍、刀、火縄…忍はいないのか」
「煩いっ!ここに来たからには生きては還さぬぞ!」

打て、と言う合図と共に火縄の口から火が吹き出した。





空白と海藍見え、万の翅と九十九の風を纏いて蒼にたゆたわん





煙が燻る中で悲鳴を上げたのは兵士たちの方だった。
断末魔を上げて、赤い血を出して次々と倒れていく。

白い視界が風によって流される時、兵士たちはこの世とは思えない現象をみた。

八左ヱ門の周りに青緑色の蝶が舞い風を従わせ、弾丸の軌道をぐるりと反対にしてしまう。
八左ヱ門たち二人の周りを一回りし、それはそれを放った男の胸に突き刺さる。

恐怖に駆られた人々は彼等が人間ではないのだと気付き、更に恐怖を増長させる。

それは彼等をとんでもない愚行へと走らせた。

「うっそ、普通飛び込んでくるか!?駁、解け!」

八左ヱ門が駁、と叫ぶや否や待っている蝶たちの中でも一回り大きい蝶が飛ぶ事をやめる。
たちまち風は消え、彼等を守るものがなくなった。

目の前には依然、槍やら刀やらを構えて飛び掛かってくる。


「弔葬一閃っ!」

兵助は指先を刃に添えて青色の光という名の炎を宿らせひとふりする。

光が体を裂き、炎が肉片を焼く。
体を大きく縮めた狐は思い切りあぎとをもたげ恐怖に駆られた駒たちに突撃する。
紙のように、腹を貫き血に染めた体を震わせた。


「せいっ!」
気がつけば物を言う体が自分たちだけしか見えなかった。

足下に散らばる赤、赤、赤。
それらの臓物を兵助は鬱陶しげに足で払いのける。

妖怪にとって人間は弱い獣のような存在である。
人間にとっての家畜がそうであるように。

北天と死を司る、北斗七星の二重星はどの人間にも平等に無慈悲を突きつける。


「ヤバい、聞く人間いなくなっちゃったじゃないか」
「いや、やったのお前等な」
八左ヱ門の等、には勿論兵助の式である管狐も含まれている。

「どうしよう、上手く情報切り出せないと仙蔵さんにどやされるぞ、コレ」

頭をポリポリと掻く兵助を一瞥し、八左ヱ門は武器庫の扉を開いた。
側にいた銀星彪紋は八左ヱ門が来たことによって印としての命をとかれ、ふらふらとさ迷い近くにあった体の肉片から口を差し込んだ。
共に戦う武器であり友であるものが食事をしはじめたのを確認して部屋の中身を確認する。

彼は、肩に止まる紺色の蝶の翅に指先を寄せた。

「丕壱、お前の力久しぶりに使わなきゃならないかもだせ」
「んな滅多に使うもんじゃないだろ、お前の丕壱紋字は……」

兵助もまた武器庫の入り口に向かう。

そしてその中に目を剥いた。



「こいつは…」
「間違いない、アイツだ」



間違える筈がない。

この部屋中に、そして呪具とやらにびしりと張り付くこの蔦を。

蔦よりずっと質が悪い、嫌悪感しか抱かないこの蔓。

その蔓は、血を糧としその血を自らの体に取り込み寄生体の血管となる。
一度寄生されれば、其を取り除くことは死を意味する。
血管を成した蔓を取れば、血管を失うも同意なのだから。


しかもこいつを扱う猿は性格もひんまがっている。
八左ヱ門の父親はこの蔓に寄生され息を絶やした。



其ほどまでに二人には因縁がありすぎるものだった。



「朱鷺椿蔓っ……!」



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あきゅろす。
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