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妖怪パロ あやかしあやし
兎、兎。何見て跳ねる。 数馬



伊作→六年
数馬→三年



ちょっと伊作←数馬な展開。










うーさぎ、うさぎ
なーにーみーてーはねる
じゅうごや、おーつきさま
みてはーあーねーる






数馬が通いなれた扉を開くと、長年連れ添った先輩と、その手にある月見草が目に入った。
「お月見、ですか?先輩」
「うん。野暮だったかな?」


月兎には、と呟かれた。
いいえ、と首を降ってから皿に盛られている団子が凄く少量なのに気が付いた。


「左近たちは、夢の中、ですか?」
「うん」
伊作が是と返すのと同時に彼らの存在を気配で探し、無いのがわかると頭巾をとりはらった。

流れる茶色の髪と白にほんのり薄桃が乗った耳。
それらを携え、閉めてあった窓を開き切った。

時は早朝。
間もなく東の空が白み始める頃だろう。

朝晩の冷たくなった空気が流れこむ。
それに一度身震いをしたが、再度閉じる事はしなかった。

寒い、と訴えかけられるかもと思ったがそんな事は無いようだ。
既に忍者服を惑い、半刻もしないうちに実習にいく伊作には慣らしておかねばならない空気だったのかもしれない。


「窓越しの月なんて、無粋です……」

西の空に沈み掛けた黄桃色の月。
数馬が行きたい、行きたかったと願う場所。

時折流れる黒い厚い雲により形を様々に変えるのを数馬はじっとみていた。


「手が、届きそうだね」
伊作は数馬の横に来ると尻を上げ枠に背を預けたあと窓から出る方の手を月に被せた。


「はい。だから僕はこの時間の月が好きなんです」


月に、行けそうな気がして。



暗にそういっている気がした。
普通の人間がそんな事を言っても只の世迷い言であろう。
しかし、数馬には違う。

月兎たちにとって帰るべき場所はあの月であり、仕える筈の神もまたそこにいるのだから。


「数馬は、いつか行くの?」
何処へ、とは言わなかった。
言えなかった。


「……いつかは」
十二分に考えてから吐き出した。


「いつかは行かなくてはならないと思っています。僕は妖、月兎であり、月天に仕えるものなんですから」

数馬自身、そうする事が良いと思っているし、そうする事で自分が"落ちこぼれ"である事を撤回できるのだと思っていた。


横目で墜ちる月を眺める伊作をみやってから、小さく呟かれた言葉は誰にも届かなかった。

届くことを望まなかった言葉は、静かに月と共に落ちてゆく。



空が白む。

伊作を呼ぶのは同じ組である留三郎。
彼には妖なのはばれているので、この出ている耳をあわてて隠さなくとも良い。

六年生を確認すると、医務室を出ていく伊作を見送った。


伊作はいってきます、という言葉を途中で忘れてしまった。


墜ちて行く月に、数馬があまりにも映えていたからだ。




このまま、持っていかれる。





墜ちて姿を消した月と姿を消さない数馬を確認してから、伊作は改めて出立の挨拶をして留三郎と合流した。





月は、もう見えない。




おりしも卯の刻消えゆく月に、地に捉えられたる月兎は何を馳せるのだろうか。







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