妖怪パロ あやかしあやし
志摩様リク 我ら図書室蔵書組 藤内+兵助+長次
「やったな、三之助っ!」
「ふふんっ」
「おぃ、お前らちょっと待てってんだ!」
「うるさぁぁぁぁあああいぃぃっっ!」
激昂した藤内の大声は、長屋だけでなく、保健室当番で昨日から泊まりこんでいる数馬や飼育当番で早く来ていた孫兵、八左ヱ門の元まで届いてきた。
「あの三人、また藤内怒らせたんだな…」
呟いたのはさて数馬だったか孫兵だったのか。
「まったく、忍術の勉強なんてやった事ないんだから、覚えにくいのに……」
藤内は学園に入ってからというもの、勉学に励んでいた。
半妖である孫兵は、半妖であるが故に人の気配や気持ちにさとく、その上獣と心を通わせられる。
作兵衛は頭は今一つだが、誰よりも体の覚えがはやく、技をものにできる。何より迷子二人を同時に御せるのは学年では彼くらいだ。
数馬は不運だし、勉学も良いとは言えないが、月兎だけあって薬草の知識は伊作に次いで豊富だし医療技術を持っているというのは大きい。
左門、三之助の二人は妖の血を引いている事を自覚すらしていないが、無意識的にそれを使いこなしている。
天才肌とは彼らのような事を言うのだ、きっと。
愛用となった忍たまの友を手に抱え、静かに自習できる所を探しながら藤内は友の凄さと自分の無能さを痛感していた。
妖の力を使えばまだ役に立つだろうとは感じるが、左門と三之助つまり人間だと思っている二人の前で変な力を見せる事はできない。
力を使えた所で自分の技は長い詠唱を必要とする。つまり一人で使おうとすれば、詠唱を敵に阻まれ反撃すらできないだろう。
だからこそ、努力せねばならない。そう強く思う。
故に、藤内は自習をしている時間に邪魔されるのを酷く嫌うのだ。
藤内は盛大なため息を落とし、静かだと思われる図書室の扉を開ける。
「あ」
藤内が声をあげた。
先客がいたのだ。
背中に流れる長い黒髪、振りかえった顔、彼は二つ上の先輩だ。
「あぁ、藤内」
「久々知、兵助、先輩」
以前あったのは何処だっただろうか。
初めて顏を会わせたのは確か雷蔵、文次郎、三木ヱ門らが大怪我をして帰ってきた時だった。
あの時の兵助からは冷たい瞳しか感じられなくて、正直恐怖の対象でもあった。
しかし、目の前にいる人間は違う。
冷たい氷の瞳は安らぎの漆黒であり、長い睫毛を瞬かせながら小首を傾げてこちらの表情を伺ってくる。
藤内は、以前の兵助と今回の兵助との違いに恐ろしい程の違和感を覚えて立ち尽くした。
瞬きひとつ出来ないまま、硬直してしまった藤内を兵助はどうしたのか、と不安気に見つめ返す。
その優しい視線に射殺されそうだった。
「藤内、此方だ」
藤内を助けた声の主は同時に図書室の主とも言える人物だった。
既に同じ図書委員の先輩達よりも図書室に入り浸っている中在家長次は、その年にして既に図書室の主と呼ばれていたのだった。
長次に促され藤内は兵助から逃げるように図書室の奥へ向かう。
そこは、図書室の蔵書部屋だ。
以前、図書室を自習の為に訪れた藤内は、使用時間の間に沢山の人が訪れているここでは集中できなかった。
彼が完全に集中してしまうと周りが全く見えなくなってしまう。
ので、席を移動して貰う為に声を掛けられたりすると集中が途切れてしまうのだ。
集中して読んでいないと内容が入って来ないのか、何度も前の頁を行ったり来たりしてしまう。
他の事がいろいろ気になって調べたりするのは良い事だとは思ったのだが、それでは大分能率が悪い。
故に長次は奥の蔵書部屋を貸し出すことにしたのだった。
「何時もすいません、中在家先輩」
藤内は兵助の優しい視線に耐えきれず、逃げる用に蔵書部屋にひっこむ。
「…………………」
「…………………」
蔵書部屋では沈黙が降りる。
長次も藤内も話さないからであるが、二人ともこの沈黙は嫌いではないのだ。
「藤内、そこ違う」
後ろから声をかけられて、藤内は体を大きく揺らす。
が背中に自分より大きな胸があって、思い切りぶつかってしまった。
後ろにいたのは兵助で、彼は藤内がぶつかって事すら意にかいさず、肩越しに覗かれた予習用の帳面にびっしり書かれた文字の中から間違いを指摘した。
「ここ、此方じゃなくて、此方側から計算するから、答え違うぞ」
「え、あ」
隣にそれを示唆する説明が既に書かれていたのに、その頁の一番下で間違えていた。
指摘され、びっしり書かれた中から少し空いている場所を探してもう一度やりなおす。
やりなおしを確認し、合っているのを見てから正解、と頭を撫でる兵助。
その手に少し戸惑いを覚えながらも、心地よさを感じていた。
「俺も、そうやって何度も勉強したなぁ」
「え?」
正直、藤内は兵助がこうやって勉強をしているとは思えなかった。
もともと、仙蔵のお世話にこの学園に招集されたといっても過言ではない。
忍者になるために来た訳ではないのだから、真面目に勉強などしているとは思えなかった。
やったとしても、秀才肌である兵助なら授業を聞いたら一回で理解出来ると思っていたのだ。
「いや、俺そんなにすごくないからね?」
兵助があきれたように言葉を返す。
どうやら気が付かないうちに言葉に出していたらしい。
少し照れくさくなって、顔をうつむけた。
「……ここ、同じように使っていた」
「その節はお世話にになりました」
くすり、と微笑む長次にたいし必死になって予習復習をしていた数年前を思い出して苦笑する兵助。
藤内は努力家な兵助の一面を見て、また驚く。
「天才っていうのは三郎みたいなのを言うんだって」
「……仙蔵と久々知は、……努力肌、だ。藤内、お前も」
今日の長次はいつもより饒舌だ。
知らなかったことが分かることは面白い。
怒ると冷酷で恐い兵助が優しい事、長次は見た目よりずっと人を見ていること。
いつの間にか、最初にあった恐怖はなくなっていた。
「それで、三之助と左門が……。作が止めてくれたんですけど、結局三人でぎゃあぎゃあ言い出して…」
「ははっ!そっちのろ組も曲者揃いだ。藤内も大変だな」
「それに、仙蔵様だって、俺に急に来いって言うんですよ?無茶振りにもほどがあります」
「あぁ、あの人本当破天荒なんだよなぁ。回禄様が実力を認めてるっていっても、ね。苦労するよ」
気が付けば、間にあった氷も溶けて、二人で仲良く話していた。
これから先二人は事ある事に苦労を分かちあう事になる。
「私語は、慎め」
話を強制終了させたのは、若い図書室の主が放つ縄標であった。
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あわわわわわわっ!
お待たせしてしまった上に、なんだこの駄文っ!
最初、藤内は兵助を恐がっていたんだけれど、実はそんなでもなかったという話にしようかなと思っていたんですが…見事撃沈しました。
しかもキャラももっと出したかったのですが、三人しか出ていないという………。
しかし、愛はめいいっぱい詰めました!
こんなもので大変申し訳ないですが、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ!
リクエストありがとうございました!
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