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妖怪パロ あやかしあやし
参拾伍 みえぬ道
はじめに目が覚めたのは、当然ながら三木ヱ門だった。


「…滝夜叉丸?」
一人容体が軽かった三木ヱ門は長屋へと移されていた。
気絶しているだけで、目立った外傷はない彼は滝夜叉丸だけが側についても平気であった。

先程までは喜八郎も共にいたのだが、伊作に三木ヱ門が目を覚ました事を伝えにいったらしい。

運んだのは、滝夜叉丸かと尋ねれば、一年の三反田だと彼は答える。

「……一年に運ばれたのか?」
「まぁな。だが、凄かったぞ。余裕で姫だっこだった」
滝夜叉丸も三木ヱ門が病み上がりだと言うことは嫌でも承知なので、どう話をしようか言葉を選んでいた。

二人はこの時はまだライバルではなく、只の級友であった。
三木ヱ門は滝夜叉丸を苦手にしていたが。


三木ヱ門は滝夜叉丸を自慢ばかりの自惚れ野郎だと思っていたし、滝夜叉丸は三木ヱ門を虐められっこの癖に自己主張が激しい面倒な奴だと思っていた。


何を話すべきなのか。
それが問題だ。


二人の頭の中には同じ言葉が浮かんで消えた。

誰か、どうにかして。と。



神頼みとやらは意外と聞くもので、喜八郎が仙蔵を連れてやってくる。


「田村、体は大丈夫なのか?」
「はい。それより立花先輩っ!文次郎先輩はっ?」

安心しろ。あいつはこんなことで倒れない。
そういった仙蔵に三木ヱ門はほっと息をついた。

「それよりも、田村。聞きたいことがある。あぁ、平も気にするな」
仙蔵が三木ヱ門に聞きたいことなど、たった一つしかないだろうと、滝夜叉丸は席をはずそうとした。
しかし仙蔵は構わないと言ってから三木ヱ門の傍に座った。
彼の一歩後ろに控えている喜八郎に滝夜叉丸はなぜか違和感を覚えた。

喜八郎だけど、喜八郎じゃない。

そんな感覚。確証も理由もなく、ただ体の本能が覚えている感覚。
静かに仙蔵の横にいる喜八郎を滝夜叉丸は見たことがない。見たことがないはずだった。

「****」

その言葉に喜八郎の肩が揺れるのと滝夜叉丸が口を塞ぐのは同時だった。

「滝?どうしたんだ?****なんて」
「い、いや」
言ってはいけない言葉だったのだと悟った。
しまおう。自分の体の奥深くに。
そうきつく口をつぐんで、仙蔵に続きを促した。
さすがというか、仙蔵は三木ヱ門に質問を投げかけていた。

「奴らの顔はみたか?」
「はい。どこの城かは分かりませんでしたが」

そこはいい。城の場所まではよく分かっている。

とある人間が自分に預けてくれた力で。

「他に何かいっていたか?」
「分かりません。僕たちも急に襲われたんです。まるで何かを試すかのようでした」
この子はまだ二年生なのに良く見ている。
これは良い忍者になるのではと、四年間しか習っていない忍の心得を思い出して仙蔵は思った。

「これくらいの円筒をこちらに向けられて・・・何か明るくなって・・」
仙蔵の眉が上がった。
分かったと、短く答えて仙蔵は喜八郎を連れてさっと部屋を出て行った。
喜八郎は終に部屋を出るまで一言も話さなかった。
滝夜叉丸もあの言葉を呟いて以後は黙ったままだった。
とりあえずは、扉が閉まって足音が聞こえる間はこの部屋に沈黙が下りていたことは確かだ。

「滝・・・」
「なんだ?」

小さな言葉が大きな部屋に響いた。
その言葉は目に見えなくてもとても重くて、自分の膝に落ちた気がした。

「なんでもない」
「そうか」

誰も言わない。
己の中に感じている違和感。

何か、何かが胸に突っかかっている。


二人とも感じていることは、不安。
しかし、それを言葉にする事はできなかった。


何も見えない。何も視えない。

何も看えない。何も診えない。

みえない。みえない。
誰かが私たちの目を覆い隠している。
ソコに何があるのか分からない。
どちらに行けば分からない。

分からないまま、ソコから離れるように、知らない誰かにつられて道を歩いてゆく。


何かが、この道を外れた何処かに違う何かがある。
それはとても近くて、とても遠い。


まだ、未だその道はみえない。
二人の知らない道の先で、絲は静かに解れていく。

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