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妖怪パロ あやかしあやし
参拾四 凶星一つ輝いて、狐蝶出陣す
「伊作先輩!」
数馬は仙蔵に言われた後、すぐに学園へ戻り、医務室へと赴いた。
伊作にもう一度改めて薬学、医学を教えてもらうために。

「数馬・・・?」
少しひどい事を言ってしまったのではないかと心配していた彼は、数馬が戻ってきた事に少し安堵した。

「先ほどはすみませんでした。僕やっぱり・・・」
数馬の声を大きな足音が遮った。

来たのは七松小平太だった。

「いさっくん!あ、留もいる調度よかった手伝って!」
小平太は珍しくその顔に汗を滴らせていたのだ。

「どうした、小平太」
「おつかいで、もんじと不破と田村がっ」
「何だって?!」
留三郎はそれを聞き、慌てて席を立つ。

「結構酷いんだ。立ってるのもままならない癖に田村背負ってるから」
「了解した。あいつを黙らせればいいんだな」
医務室の窓から二人は身軽に飛び降り、校庭を横切って裏門へと走っていった。

「ごめんね数馬。どうやらいきなり実践みたいだ」
「の、望むところです」
数馬は内心、手術をする羽目になるとは思っておらず、びっくりしていたがそれでも目の前にいる伊作が大丈夫だよ、と笑うので頑張れる気がした。

この人に見送られた魂はこの笑顔をみたのだ。
最後にこんな優しい母のような顔を見せられたのなら、きっと幸せに静かに逝けたのだろうと思った。



そう、それが以津真天という優しいあやかしの力。
死に逝く魂を静かに安らかに送る力。



「小平太!そのまま新野先生と先輩呼んできてっ!数馬は田村と不破の止血。留さんは傷薬と糸と針!」
文次郎達を背負ってきた二人に伊作は指令を飛ばす。
一緒についてきた三郎も雷蔵の様子を心配そうに見ながら手伝っている。

それを冷たい眼で見やる二対の瞳があった。
棚引く水色からは寒気がするほどの殺気。
それは学園の屋根から放出されており、そこに呼び出されていた藤内はびくびくと身体を自らの主に摺り寄せるしかない。

仙蔵を挟んで隣にいる喜八郎も愛するものの隣へは行こうとしなかった。

「学園長の御使いを頼まれたのは田村だ。そしてそれの護衛に雷蔵がついた。途中鍛錬をしていた文次郎がそれに付き合う形になった」
仙蔵はつらつらと、氷の空気をものともせずに状況を述べた。

「が、なんらかによって人間に襲われた。どこの城のものかも分かっている」
仙蔵が火扇を閉じて空に炎で地図を描く。
二人はそれを無言で見つめた。

「わかっているな」
仙蔵の言葉に二人は頷いた。

「俺らのダチに手ぇ出すとは良い度胸だよ」
「あぁ。許さない」
「・・・・兵助さん・・・。」
怒りに染まった蒼い瞳を喜八郎は心配そうに見やる。
この人が、冷静そうに見えて一番熱い人なのだということは良くしっている。

今回はどこぞの大うつけ者が二人の逆鱗に触れてしまった。
人間の味方をしたいなどと喜八郎は微塵も思わない。
だけれど、喜八郎は知っている。
兵助は自分が人間を殺すことを良しと思っておらず、人間と共存したいと思っていること。
そして、そんな自分の意見を尊重して兵助もまた人断ちをしており、人を殺めることを極力控えていること。
それから、それでも怒りに任せて人を殺してしまって自己嫌悪に陥っていることも。

「・・・ごめんな、喜八郎」
「いいえっ!・・・お気をつけて」
兵助の顔が少し緩む。
悲しそうな、でも揺るがない信念を持った顔。
それを見ていられなくて喜八郎は顔をうつむけた。
戦う術を持たない彼にはこうして兵助を送ることしかできないのだから。

「あぁ。では」
兵助は上司になっている仙蔵に頭を軽く下げると、八左ヱ門の風に乗って駆けていった。


「ふぅ・・・。喜八郎先輩。あの方たち強いじゃないですか。そんなに心配することですか?」
やっと消え去った吹雪に藤内は肩の荷を降ろした。
「兵助さんたちの身体の心配はしてないよ」

一言だけそういうと、喜八郎は北天を望む。

「喜八郎。私も奴らの本気とやらを見たことがないのだが、お前はあるか?」
「はい、一度だけ」

それは昔。遠い昔。
仙蔵に出会う少し前。白い狐が人の血を浴びて黒い狐に成り果てた時。

敵の兵士はすべて凍りついていた。
人が焼かれた炎は炎の形状を残して氷結していた。

黒い狐は、強くなった力が故に暴走すると言われている。
現に兵助もあの事件のあとは何百年も牢に入れられていたのだ。
それでも、暴走せずに意識を保っていられるのは、彼が選ばれた存在だからだ。


黒狐は北天の守り神。
北斗の力をその身体に宿すことができる唯一無二の存在。

「彼ら-----は、北斗は、負けませんよ」

微笑む喜八郎の肩越しに、北斗七星が輝く。

北斗七星の中に強く輝く星、二つ。

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あきゅろす。
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