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妖怪パロ あやかしあやし
弐拾陸-鵺と鈴と兎と鼠-

「はじめまして。一年は組、浦風藤内だ」
「同じく僕は三反田数馬」

差し出された掌に彼は握り返そうとした。

「あぁ、宜しく。俺は富松作兵衛」
十の少年らしくにこりと笑う。

血の匂いはしない。
が、何か聞いた事のある名前だとは思った。


ばしり


大きな音を立てて差し出した掌をはたかれてしまう。

痛いとか怒りとかよりも、驚いてしまって目を見開いた。

藤内ならば多少なりとも怒っただろう。
少々キツそうな顔立ちをしていたから。


手を叩いた張本人、三反田数馬は自分すら何をしていたのか判らずに作兵衛を見ると目を潤ませて脱兎の如く駆け出した。


「おぃっ、数馬っ!」
「待てって!」
急に逃げ出してしまった数馬を追って作兵衛と藤内は彼を追いかけた。


彼は気が付かない間に姿を山の方に消してしまった。

「一体何だったんだよ、浦風」
作兵衛は何がなんだかさっぱり分からなくて隣に聞いてみる。
藤内は作兵衛を見たあと、充分な間をあけてから、大きくため息をついた。


「まず、藤内って呼んでくれ。仲間に仮名で呼ばれるのは気分が悪い」
藤内の言葉に作兵衛はぴんときた。

「次に数馬がどっか行っちゃった原因は君と数馬、両方だ」
「ってのは?」
作兵衛は藤内に更に先を促した。


「一つ、君が妖であるからだ。血の匂いを隠してはいるけど、触れた時に妖力が流れてきた」
作兵衛はむぅ、と口を真一文字にする。
どうやら藤内に警戒をし出したようだ。
藤内はそんな作兵衛に対しもう一度ため息をついた。

「一つ数馬が、妖怪の血を極端に嫌う式神であるからだ」
「式神?誰のだってんだ?」
作兵衛の荒々しい口調にも藤内は怯まない。

軽く指で空を指し短く、月天、と呟いた。

「じゃ、じゃあっ数馬は月天の使いである月兎ってことか?」
「そゆこと」
作兵衛は目を向いた。
元々月天とは月にいる神でありそのお世話役と言われている月兎も月にいると言われていたのだ。

彼も色々な場所を旅して来たが初めてあったほど珍しいものなのだ。


「因みに俺も式神だからね?数馬見たいに血には弱くないけれど」
藤内はニタリと含み笑いをした。

「藤内もか?血の匂いなんぞしねぇけど……」

作兵衛が本当かよと唇をつきだした。




「確かに妖怪、妖は動物から人を喰らって転じたものが殆んどだから血の匂いが妖怪の証なのは間違いないけど。
まぁ数馬は月兎の一族らしいから血の匂いが消えてしまったんだけど。俺には生まれた時から血の匂いなんぞしないはずさ」

「狐の力を頂いて生まれた、モノノケ、だからね」


そういうと、何処からともなく鈴の音が響いた。

その音に耳をやって一緒藤内から目を離せば、作兵衛より身長が高くなっている。

黒い特徴ある前髪、着ている翠の着流しには左肩と左太股の辺りから裾にかけて大きく印がはいっている。
袖口には、下がり藤。
そして足には九尾の印。


作兵衛はそれらを聞いた事があった。
「あ、狐印に下がり藤。そうかお前が噂に聞いてた白沢の式神!」

「鈴彦姫の藤内と申します。以後お見知りおきを。鵺の作兵衛殿」
藤内が腰をおればしゃらりしゃらりと帯や結い紐についた鈴が鳴った。


「こちらこそって言いたい所だけどよ、今は数馬を探すのが先だな」
そういうと作兵衛も風を纏って蛇の尾と虎の耳を出した。




「鵺って顔猿なんじゃなかったっけ?耳も猿なんじゃないの?」
「俺は父さんが人虎だから虎の血が強いらしいってんでさ」


作兵衛の掌に再び風が集まる。

「風で探し出してぇ所だけど俺は数馬の匂いを覚えてないんだよなぁ」
と作兵衛は数馬が消えた方に視線を向けた。


「とにかくあっちに急ごう!血に触れたから多分兎の状態に戻ってるはずだ。兎の匂いを追って!」
「分かった。藤内、ちいとばかし飛ばすぞ!今日中に帰れなきゃ遅刻だからな」
「わか、………みぎゃぁぁーっ!」


作兵衛は、藤内を風にのせると疾風の如く裏山を駆け抜けた。
余りの速さに藤内の悲鳴だけがその場に残って彼らの姿はあっというまに消えてしまった。







「月兎がなんでこんな所にいるんだか知らねぇけど、こりゃいいやぁ」

喰っちまえ、と数馬の前にいる鼠は大きな姿で兎を威嚇した。
数馬はひぃ、と身をすくめた。



「 」



小さな鈴の音色が聞こえた。


数馬は耳をぺたりと伏せて、座りこむ。
それに対して機嫌を良くしたらしい鼠は長い前歯を上げた。



ぐおんっ



風が凪いだ。

その風は鼠の大きな巨体を怯ませた。


「よ、よく届くなぁ。ここから四、五町はあるのに」
「んなこと言ってる場合じゃねぇってんだ!」

作兵衛が風を纏ったまま、前を見れば、そこには頭をふって気をとりなおし再びアギトを数馬に向けるた鼠。



「任せて。こっちに来る前に予習は完璧だったからね」

作兵衛の風に揺られながら、藤内は肩に巻いた鈴を外す。

風に煽られてもその鈴は鳴らない。

藤内が身につけている鈴は全て藤内の意志に寄って音を出すのである。


「泰山、鳴動して此楚を縛せし。地雷走りて、天雷震えじ、此又楚を縛す」

鈴を転がした唄は詞になり、呪詞になる。

彼らの体にある力は言葉という道具によって、現世に生をなす。


雷縛の術が藤内によって施される。

「きゅおおぉっ」
鼠の周囲には雷が走り、その体を縄の様に縛りあげる。


その間に藤内と作兵衛が数馬の近くで風から降りた。

藤内は半分落下したと言った方がいいだろうが。


「数馬、大丈夫……っぷ」
「う、うん。藤内こそ大丈夫?」


荒々しい風に乗った為に酔ってしまった藤内に数馬は労りの言葉をかけた。

雷の音が途絶えた。

「おい、藤内っ!」
「そんなっ、鼠は金属性が殆んどだろ?だから木の逆手の雷縛を使ったんだぞ!?」

それがどうやら効いていないようだ。


「金属性じゃ、ねぇってことだよ…………こいつぁ………」


作兵衛が藤内と数馬を後ろへやり、鼠と距離をおく。

鼠が高い声で鳴いた。
それは動物の可愛らしい二十日鼠のような声ではなく、耳をつんざく高い化物の声。


作兵衛の言葉と同時に、鼠は自らの体に火炎を燃え上がらせた。



「金すら砕く鼠っ…鉄鼠だっ」


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