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妖怪パロ あやかしあやし
拾玖-三木、恐怖も痛みもなく自らの髪を呪う-


明るい髪は異人の子。
異人の子は面倒事を引き起こす。
災いを呼んでくる。


要らない。
入らない。


関わるな
係わるな

異人に目をつけられれば災いが
異人の機嫌を損ねれば災いが




三木ヱ門はぼうと、部屋で座っていた。

目の前には硯に墨が摺ってあった。



明るい髪の毛は、異人の証。
明るい目の色は、異形の証。



三木ヱ門は見つめ続けた。
黒い、硯。
黒い、墨。






三木ヱ門は苛められていた訳ではなかった。
何もされなかったのだから。




教室の机に落書きをされたり、教科書をボロボロにされたり、放課後呼び出されるわけでもない。


只、無視をされつづけるだけなのだ。何もないかのように。

只、腫れ物を扱うようにされるだけなのだ。何かを恐れるかのように。

三木ヱ門は小さいなりに解っていたのだ。
彼らは、自分を怖れていると。

この髪に、この瞳に。





「髪が、黒かったら…いいのに」




かたり。




びちゃり。



がしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがしがし。


ぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶちぶち。


痛みはない。
三木ヱ門の髪が、短くなり、荒れ、黒くなる。

黒くなっていく指と、床とそれから髪。

三木ヱ門の口角が歪む。

手は、止まらない。



「おい、田村。来週の予算――――何をやっているんだ貴様っ!」

文次郎は叫び、急いで三木ヱ門の手を止めた。

彼が好んでいた明るい髪は、黒い墨が被せられていた。
髪も服も床も黒くしながら、三木ヱ門はそれでも足りないかのように、自らの髪をつかみ、墨を硯で擦らずに直接髪に擦っていたのだ。

お陰で髪は変に黒い上にボロボロだった。
文次郎は三木ヱ門を抱き上げる。

手にまだ持っていた墨は手で払い落とした。


だいぶ手荒だが、文次郎も冷静でいられなかったのだ。


横抱きにしたまま、風呂に入る。

文次郎も三木ヱ門も制服のままだったが、気にするほどの人間は今ここにはいない。


風呂にぶち込み、お湯を汲み制服ごと頭からお湯を掛けた。
お湯を掛けられた事によって、幾分か意識を取り戻した三木ヱ門は嫌だと拒否を示す。


文次郎にそんな事は関係がない。
嫌だと駄々をこねても小さな一年の力。
力で騙され、あっというまに頭を洗濯させられる。

三木ヱ門が必死にやめてと言っても文次郎の手はとまらない。
彼の手も口も、三木ヱ門の髪が元に戻るまで開かなかった。

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