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妖怪パロ あやかしあやし
立花仙蔵の話


立花 仙蔵の場合。


綺麗なはずの髪の毛がまばらに散っていた。
何時もなら冷静な声が大きくなる。
終いには人間であったはずの姿は、ごうと炎に塗れて金色の獣になる始末。

それでも、彼のー忍術学園六年い組立花仙蔵の傍を離れようとしないものが二人。

「だぁああああっっ!!福冨しんべヱぇっ!山村喜三太っ!はーなーれーんかっ!」
「嫌ですぅ〜立花先輩の尻尾ふわふわで気持ちいいんですもの〜」
「うんっ、おひさまの匂いがするね〜美味しそう〜」

しんべヱ、喜三太と呼ばれた二人は金色をした狐の尾をひっつかんで離すまいとしていた。
本当は彼は狐とはまた少しちがう、腹に翠の三つ目を持ち、額に三本の角を持つ白沢なのだが、今の彼らには関係ないだろう。


「二人ともやめんかっ!うわぁぁっ、喜三太!お前が気をぬくから毛にお前のぬめりけがっ!ってしんべヱ涎が出てるじゃないかっ!」
私の尻尾がっ!せっかく毛繕いしたのにっ!と仙蔵は嘆く。

「じゃぁ僕が毛繕いしてあげますー」
にこりと笑う喜三太に正直仙蔵は恐怖しか覚えない。
だって目の前の少年はこれでも水を扱う。彼にとって恐ろしいものの一つだからだ。
いったい彼らの所為で何度酷い目にあったことやら。

まぁ・・・彼ら自身は悪気があったわけでもないし、嫌いではないのだが。

だが、仙蔵の大嫌いな湿り気を大量に含んだ人間ではない喜三太の毛繕いだけは御免蒙りたいのだ。

「いらんっ!」
「そんなこと言わずにぃ〜」
後ろ足を伸ばして躊躇なく近づいてきた喜三太の顔を蹴る。
しかし別に蹴られたからといって力が入っているわけでもないし、通常の人間と違って喜三太には爪が引っかかっても問題ない。
しんべヱには少し気をつけなければいけないのだが・・・。
寧ろ気をつけなければならないのは仙蔵の方かもしれない。
しんべヱの頬は蹴れば蹴るたび、いやつつけばつつくほど、ふわふわとしたたまらない感触なのだから。

癖になりそう、という言葉は自身のために心の中だけで止めておく。


「そうですよ〜せんぱいー!」
「なにがせ・・・ひうっ・・・!」


仙蔵の口から甲高い声が漏れる。
しんべヱがまだ仙蔵と遊びたい、と縋りついた先が悪かった。
何分、そこは仙蔵の尾元。仙蔵が一番弱いところだからだ。

場が鎮まったと同時に仙蔵の顔が首から順に赤く染め上がっていく。
その声が意図するところを何となく本能で察知した喜三太はそれ以上触るのを辞める。
しかし仙蔵の高い、聞いたことがない声に魅せられてしんべヱは再び自分が持った所を握り直す。

「ひっ・・・ひゃっ・・・・うくっ・・・」
「あ、あれ?」
仙蔵が必死に声を遮る事によって先ほどとは少し違った反応が返ってくることにしんべヱは首をひねった。
しんべヱは先ほどの仙蔵の可愛い声を聞きたいと思ってさらにそこを攻める。

仙蔵の体から炎が漏れ出し見慣れた人の体を成す。
長年、この人の体で生きてきたのだ、この体が一番性にあっていて、無意識的にこの体を成すのだ。

指先から炎が零れるなか、自分の腕を抱えて自分を支えながら仙蔵は後で悪戯するしんべヱを睨みつけた。
その姿が今後ずっとしんべヱの心の奥に棲まって消えぬ事など知らずに。


「・・・いいかげんに・・・しろっ!!」

仙蔵は容赦なくその体を後足で吹き飛ばしその場を颯爽と歩いていった。
後に残るのは、喜三太に守られながら気絶しているしんべヱとそのしんべヱを守ろうとしたものの、彼の体重の所為で気絶してしまった喜三太だけだった。

* * *

立花仙蔵はため息をついていた。
その横で中在家長次は静かに肩を下ろした。

新しい禁書の中身を確認しんがら彼はあえて自分から仙蔵の方を向くことなく話しかけた。

こういう姿を仙蔵は見られたくないと知っているからだった。
だから今もこうして自分の部屋には戻らずに長次の部屋にいるのだった。

「仙蔵、今ので二十三回目だぞ」
「うぅ」
長次の静かな叱責に仙蔵は低く唸るだけだ。
彼は落ち込んでいる。
先ほどの昼間にうっかり自分の苦手な尾を触られて恥ずかしい目にあったとはいえ、一年生を思いっきり手加減なく蹴り倒してしまったことについてだ。

謝りに行きたいししんべヱがどうなったかも心配だし、あの時その場にいた喜三太の事も心配だった。
しかし心配ではあるが、自分から仕掛けたことであるし、悪いのは向こうなのだからと仙蔵の誇りが今も彼をここでぐずぐずさせているのだった。

仕方がないな、と長次は半分以上中身を把握している本を捲る作業を止め、口を動かす作業に入った。
今まで口をあまり動かす事がない彼にとってそれは本の頁を進めるより遥かに難行だったのだ。
同時に別の事を出来るほどの事ではなかったのだ。

「・・・似ているな。しんべヱは」
どんな言葉をかければいいのかじっくり推敲してからそれだけを紡いだ。
仙蔵はそれだけで頭を抱えて顔を伏せた。
どうやら自分でも自覚はしているらしい。

彼は似ているのだ。
仙蔵が初めて恋をしたある男と。

彼が初めて特別にしたいと思った男と。

面影も態度も言葉も。
全部、彼と重なって見えるのだ。

まるであの男がまだ生きているかのように。


「似すぎている・・・無意識に全てを委ねてしまうほどに・・・」

左腕で口を覆い、枕にして机に顔を寄せる。
右腕は肘を立ててはいたが、手首が折れてだれきっているあたり、力が抜けきっている証拠だろう。

そのまま仙蔵は静かに瞼を閉じる。
そして想いを馳せる。

自分がまだ若かったころ、数百年前のあの頃に。


仙蔵は白化種の白狐として生まれた。
狩りは下手くそな上に、親もおらず、その色で仲間と一緒になることもなかった。
その中で一人の男が美しい白い毛並みの仙蔵を見て彼を捕まえた。
仙蔵はその時名前もなく、人間というものすらほとんど知らなかったので、人間の罠というものにどう対応していればいいのか分からなかったからあっさり捕まったのだ。

頑丈な檻に閉じ込められて最初はなんとなく爪を立てた。
自分はこんな狭いなかではなく大きな山の中で自由に生きていたのだから違和感を感じて。
例え狩りが下手くそでも今までとは違いすぎる場所に不安を覚えたのだ。

しかし人間は仙蔵を離す事はしない。
人間の前に立たされる毎日。しかし同じ様に毎日出される食事に仙蔵の心は柔和になっていった。

それまでの仙蔵は毎日食事が出来るような環境にいなかったのだから、これは大きかった。

空腹から逃れられるならと、狭い檻での生活にもなれた。
暴れることをやめれば人間はさらに彼を崇めた。
男は今日も仙蔵の横で難しい言葉をはなっている。
ずっと聞かされていれば人間の言葉も覚えてしまうものだ。
しかし自分を捕えた男の言葉は専門用語ばかりでよくわからなかった。

「さむい」

それが一番初めに覚えた言葉だった。
寒い寒いといって男は布団にくるまっていた。
檻の前で自分に向かって手を合わせている人間もみな一様に寒いと呟いていた。

仙蔵はふとその時思った。
この男はいつも自分に餌をくれる。
この男は自分に名前をくれた。
この人間たちは毎日自分に会いに来てくれる。
毛皮のある自分には寒いという感覚はあまりないが、人間たちが寒いというならば温めてやりたいと思った。
そして彼は火の神々に頼みこみ自分に力をくれるように頼みこみ、それは叶った。
火の力を使って雪を溶かし、雪を溶かした雨を降らせ、日を照らした。


結果、雪崩で村は消えた。


人間をまだ知らぬのだと神々は欲深な人間をたしなめ仙蔵はお咎めなしとなった。
彼らは実際面倒だったのだとおもう。
その時は大きな敵と戦っていたのだがら。
仙蔵にももっと人間をよく知れ、といって京の都に押しやって自分たちは戦に向かっていった。

人間をよく知れと言われた仙蔵は、人が闊歩する京に自分の体を変化させて彼らを見ていた。
彼らを観察していた中で仙蔵は一人の男とであった。

男は疲れたとばかりに岩に座って休んでいた。
大分お疲れのようだった。
それもそのはずだ仙蔵が棲んでいるこの山にはほとんど人が通らない。
つまり獣道だらけなのだから。

「あーあ、迷っちゃったか。今夜は此処で野宿するしかないな」
男は少しふくよかで、それでも税金で遊び三昧の貴族たちよりもずっと好青年だった。
しっかり鍛えているからだと考えなおす。
よくよく体つきを見れば、ふくよかというよりかはがっしり、と言うべきだったのだろう。
それでもゆったり切られた狩衣は男の体をふくよかにみせていた。

男はその夜本当に野宿をしだした。
しかも意外と手慣れた様で火の容易をしていた。
うっかり寝入ってしまい、火が消えた事に気がつかない程度には疲れていたのだろう。
山の獣や妖怪は、今のところよりつかないはずだ。
仙蔵というそこそこ強い狐がいるのだから。

仙蔵は男が寝入ったのを確認してから、静かに彼に近づいた。
足を立てずに男の顔を覗き込んでからその場に座りこんで顔を見上げた。
口が小さく動いた。「さむい」と。

その言葉は仙蔵が一番最初に覚えた人間の言葉だ。
仙蔵は火を出そうとして、少し前の村を思い出す。
しかし今は雪が降る時期ではないと考え直し、男が弄っていた薪に火を再びともした。

男の眉間の皺がゆるむのを見て仙蔵は胸の奥が温かくなった。
仙蔵は彼の事がもっと知りたくなった。
だから彼のいる場所を突き止めて、それから帰宅の道順を覚えて彼を待った。

橘の木の下で、景色を楽しむ振りをしつつ彼を毎日のように待った。
彼は都の中心で店を営んでいた。
赤門近くに店を構えているのだ、相当な御身分だという事はわかった。
それから宮司のような仕事をしていることもわかった。
時々、陰陽師のような格好をした男と話しながら宮殿に入っていくのも見た。

仙蔵がぼうっと木の下で男を待って幾日か経てば男から声を掛けてきた。
その時仙蔵は自分がそういえば、人間に似た容姿に変化しているのだと思いだした。
長い黒髪、キツイ瞳、白い肌。
仙蔵が綺麗だとおもったものを寄せ集めて作った容姿だった。

声をかけられ名前を聞かれて仙蔵は「橘仙蔵」だと名乗った。
人間に苗字が在ることは覚えていたけれど、橘というのは自分の傍に生えていた木をみて唐突に出したものだった。
それでも青年は笑って仙蔵の名を呼んでくれた。
毎日のように青年のところについて行き彼に構ってくれた。
青年の知り合いで二人の友にも出会えた。

結果、男は過労で病になった。

彼自身大きな店の主人だ。
仕事が忙しいというのに、それでも仙蔵に構っていたのだから当然だ。
むしろ倒れなかった方がおかしかった。
仙蔵は彼の笑顔に騙されたし、男も仙蔵に知られたくなかった。

しかし病を起こして床に伏せて話さないわけにもいかず、全てを話した。
たったひとつの事実を残して。

犬神に難業を降らせてでも男を治してほしいと頼みこんだが駄目だと言われた。
犬神はその時主を自分の力で無くしたばっかりで、仙蔵が知らない事実をしっていた。
だから仙蔵を男に近づけまいと吼えた。
納得できない仙蔵もまた怒った。

「ふざけるな!あの人はお強い!貴様なぞの力に負けるわけなかろう!」
「違う!人は弱い!強いというなら病なぞ自分ではね飛ばせるはずだ!」
「それとこれは違う!」
「違わねえ!人間は弱いんだ!心も体も!分かれ仙蔵、人間にかかわったってロクな事がない!」
「違う!あの人は、あの人はっ・・・!」

結局犬神の力を借りることはできず、彼と大乱闘をした後に男の部屋に押し入った。
ガタガタ震えながらも、仙蔵を笑顔で迎える男を無理やり褥に寝かせる。
それから静かに人の姿を変えた。
金色の獣になって傍に居てやれば温かいかと思ったのだ。
人間が自分たち妖を好きでないのは友から口酸っぱく聞かされていた。
同時に利用するのだ、とも。
それでもいいと思った。

利用するなら思う存分利用してくれと思った。
それで男が生きてくれるなら、元気になってくれるなら、それでよかった。

綺麗だと褒めてくれた黒髪も、顔も、贈ってもらった着物も、簪も入らなかった。
男は仙蔵に笑顔をくれた。
檻の中で一人だった彼の手を取ってくれた。
唐菓子の美味しさを教えてくれたし、人間の優しさを教えてくれた。
勉強も教えてくれたし、政を教えてくれた。
彼から貰ったものはたくさんあるから、もうこれ以上はもらえなかった。

自分の名前を呼ぶ男に黙って寄り添った。
抱きしめてくれる腕は、きっと幻だ。
人間は人間しか愛さない。
自分は獣なのだから、腹にある太い腕はきっと偽物だ。

「君は、あったかいね」


「私・・・は」
「仙蔵、だよね。立花仙蔵だ」
「え・・・立花・・・いや私は・・・」
「人に踏まれても、風に煽られても、それでも凛と顔を上げる花。立花仙蔵。違わないでしょ?」

仙蔵は金色の毛におおわれた顔を静かに頷かせることしかできなかった。

仙蔵が再び口長くなった口を動かそうとしたときだった。

「仙蔵!そいつから離れろ!」
犬神が乱入してきたのだった。
二人の時間をつぶされ、かつ離れろと言われてしまった仙蔵の堪忍袋の緒はあっさり切れる。
ふざけるな、なにをしにきた、と仙蔵が四つの足を地面につけて唸る。
犬神は黒い毛並みを逆立てながら、反論する。
何度か言い争って、犬神はまるで言うのをずっと躊躇っていたのを半分やけっぱちのように叫んだ。

「仙蔵!まだ気づかないのか!」
「文次郎!、やめ・・・ごふっごふっ・・・」


「そいつの病はな!貴様が無意識のうちにそいつの生気を喰らっているからだ!!」


コレが敵の言葉であったのなら、どれだけ良かったのだろう。
敵の言葉なぞ誰が聞くか、と一蹴すればいいだけだ。
しかしながら、言ったのは気にくわないけれど、本音をぶつけ合える犬神ー文次郎だった。
なおさらたちが悪い。

「え・・・わた・・・しが・・・?そんな・・・・」

金色の獣姿が両手を地面につけた人間の姿に代わる。
しかし耳は白色のままであり、尻からは白色の尾が垂れ下がっている。
手の先は瞬きごとに獣の爪と人間の肌とが入れ替わる。
彼の体から炎が漏れ出していた。

それから先の事は仙蔵自身よく覚えていない。
多分暴走したのだとは思う。
覚えているのは、自分すら燃える焔の中で聞いた声だった。


「たかまのはなに かんづまります すめむつかむろぎかむろみのみこともちて すめみまのみことはとよあしはらのみづほのくにを やすくにとたいらけくしろしめせと あまくだしよさしまつりしときに ことよさしまつりしあまつのりとのふとのりとごとをもつて もうしくかむいさなぎいさなみのみこと いもせふたばしら らとつぎたまひて くにのやほくにの しまのやほしまをうみたまひ やほよろずのかみをうみたまひて まなでしに ほむすびのかみをうみたまひて みほとやかれていはがくりまして よるなのかひるなのか あをなみたまひあがなせのみことともうしたまひき このなのかにはたらづてかくれますことよしとてみそなはすとき ひをうみたまひてみほとをやかれましき かかるときに あがなせのみことの あをみたまふなともうしをあをみあはたしたまひつと まうしたまひて あがなせのみことはかみつくにをしろしめすべし あはしもつくにをしらさむともうして いはがくりたまひて よみつひらさかにいたりまして おもはしめさく あがなせのみことのしろしめすかみつくにに こころあしきこをうみおきてきぬとのたまひて かえしましてさらにうむこ みずのかみ ひさこかわなはにやまひめ よくさのものをうみたまひて このこころあしきこのこころすさびるは みずひさこはにやまひめ かわなをもちてしづめたてまつれと ことおしえさとしたまひき これによりて たたへごとをへたてまつらば すめみまのみかどにみこころいちはやびたまはじとして たてまつるまのは あかるたへてるたへにぎたへあらたへ いつつのいろのものをそなへたてまつりて おうみのはなにすむものは はたのひろものさものおきつもはへつもはにいたるまでにみわはみかのへたかしり みかのはらみてならべてにぎしねあらしねにいたるまでに よこやまのごとくおきたかなして あまつのりとのふとのりこごとを もちて たたえことをへたてまつらくとまうす」

病に臥せっているとは思えぬ滑舌の良さ。
強さをはらんだその声は途切れることなく、迷う事もなく、ただただ、仙蔵の事だけを思って紡がれた祝詞。
神に告げるべきはずのソレを男は躊躇いなく仙蔵に向かって言祝いだ。
そのころ一介の狐であった仙蔵にそれの意味はまったく分からなかった。
しかしそれでもそれを聞いて優しい気分になれたのは事実であった。

「焔の山に棲む明るき日の狐の荒び荒ぶる荒御霊を鎮まり給えと白す事の由を高天の原に咲き誇る立花に棲む白き狐の仙共に天つ祝詞太祝詞事を以て聞こし食せと白す」

自らの焔に焼かれる仙蔵の体に覆いかぶさりながら、ただひたすらに火よ鎮まれと呟く。
その顔が見なれている小さな姿になった瞬間仙蔵はだらけていた体を起こし頭を振った。


「部屋にもどる。すまなかったな長次」
「気にするな」

そう言葉を交わして仙蔵は六年ろ組の長屋を出た。
自分の部屋の前でそわそわしていた一年生に声をかけると、すまなそうにこちらを見て、花を差し出してきた。

「あの、先輩。先ほどはすみませんでした。僕調子にのっちゃって・・・」
「僕もすみませんでしたっ!」
「あの、これ裏山で採ってきたんです、先輩にあげようとおもって!」
「凄い綺麗だから立花先輩に似合うと思ったんだよね、しんべヱ!」
「うんっ!あの・・・だから、僕たちの事、嫌いにならないでください」

差し出された色とりどりの花。
きっと大変な思いをして採ってきてくれたのだ。
まだ頬に泥がついているし、腕に擦り傷がある。
見つけられない仙蔵ではなかった。
自分が悪いというのに、嫌いにならないでなどと言ってくる。
なんて優しい子供たちなのだろう。


苦しくなるくらい優しい子たちだ。

あの人に似て。


「嫌いになぞ、なるものか。ありがとう、しんべヱ、喜三太」
私も悪かった、怪我はしていないか?痛くないか?と仙蔵は二人を思いきり抱きしめた。
それがうれしかったのか、仙蔵の笑顔がうれしかったのか、はたまた両方なのか。
二人は、はいっ!っと笑顔で答えた。



今度は私が守って見せる。
どんなに踏まれても蔑まされても、私に水をくれる優しい腕があるかぎり、ただ凛空を見て華を咲かせてみせる。




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