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妖怪パロ あやかしあやし
拾捌-滝、自らと友を天秤にかけ大いに悩む-

「…………………」
滝夜叉丸は食堂で一人昼食を取っていた。

ちらり。

見るのは右前、丁度机の対角線上にいる同級生。
そう、この時の滝夜叉丸にとって彼は只の同級生でしかなかった。


同級生は、黙って静かに一人で食事をする。

この机には滝夜叉丸と彼しか座っていない。

滝夜叉丸は彼の事を良く知っていた。


田村三木ヱ門。


目立つ容姿故に、入学当初はとても目立っていた。

ろ組など目ではないと思っていたので、人の名前など覚えようともしなかったが、三木ヱ門の噂だけは入ってきた。


その噂が、元気で少し大雑把で綺麗だという良い噂から、異人との混血だの妖怪の子だの言われる様になったのは何時だったか。


三木ヱ門が、笑わなくなったのは。
三木ヱ門の笑顔に力がなくなったのは。


味噌汁を啜りながら、思い出せないなと滝夜叉丸は目を伏せた。


最近、滝夜叉丸はずっと三木ヱ門を目で追っていた。

あの髪の毛の色は目立つからだ。
今は居ないが同室の喜八郎に少しだけ話を聞いた事もある。



彼は朝から晩まで独りなのだという。
実習や授業はクラスの中に無理に笑って入り込んで先生に迷惑を掛けないようにしているが、それ以外では独りなのだという。
滝夜叉丸自身も少しだけろ組の話を聞いた事がある。


曰く、三木ヱ門が入ると不気味で気味が悪く、穢れるたり死期が早まったりするらしい。


そんな訳有るわけないだろう。
あの髪が、不気味だという輩の目は節穴どころか、色を認識できないのだと思う。

思いだして込み上げた気持ちをお茶で流し込んだ。


気が付けば三木ヱ門はおらず、滝夜叉丸は三木ヱ門を救ってやりたくても何も出来ない自分に苛立ち溜め息をついた。


こういう時は戦輪でも練習して、思いを吹き払ってしまうのがいいと食器を片付け裏山の練習場所に行こうと決めた。


そう、こんな思いはしなくていいのだ。

私は、ここに忍者に成るために来ているのだから、他の人間にかまかけてる場合ではないのだ。



次代の平家当主は貴方ですよ滝夜叉丸。
決してあの女の子等に負けてはなりません。
彼が二倍練習したならば滝、貴方は四倍練習すればよいのです。負けてはなりません。負けては。



母の忠言が頭と胸に染み入った。
あいつが二倍ならこちらは四倍、そこまでやって初めて同等なのだから、勝つためには更に頑張らねばならない。

他人の事など考えている暇はないのだ。


自らに言い聞かせてから、食堂を後にした。





かつん。


戦輪が的の外側に流れて近くの樹に刺さった。

最近やっと意識して的に当てる事ができ始めたと言うのに。


頭に浮かぶあの顔も、周りの言葉も振り払うように、大きく振りかぶって投げた。

また大きく外れて土に刺さる。

この体に溢れる気持ちを振り払えない。
どうすれば無くなるのか解らないのだ。

そんなに投げてもいないのに異常に疲れて、肩で息をしていた。

「っ、はぁっ、はぁっ」
それでも途中で辞めることなんて出来なくて、重い腕をもう一度ふりかぶった。


当然、また的からは大きく外れる。

「そんなに力んでたら当たるものも当たらないぞ」

「七松先輩?」

滝夜叉丸は後ろから現れた委員会の先輩をみやった。


「どうしたんだ?お前らしくないな」
近くの地に刺さった戦輪を抜くと小平太は滝夜叉丸の手を広げそこに置いた。


「…………」
「言いたくないなら、いいんだけどな」
口を閉じたままの滝夜叉丸に小平太は苦笑し小さな彼の頭を撫でた。

小平太は滝夜叉丸とはあまり話してはいなかったが、それでも彼が一人で最後までやりたがる子なのはわかっていた。

「言いたくなったら、何時でも言ってきていいからな。私はお前の先輩なんだから」
頭を小平太に撫でられたまま、滝夜叉丸は小さく呟いた。


小さく、小さく。





私は何もできないんです。と。


「そんな訳ないだろう。滝に限って」
小平太た小さな呟きも拾い上げ、当然の様にそう切り返した。

滝夜叉丸の堰が外れた。


「だって、私は何もできないんです!三木が笑わなくなっても、辛そうにしてても、心配してやる事しか出来ないんです!私は自分の事で手一杯で、三木と話そうとしても何を話したらいいのか解らないしっ」

三木とは一年の田村三木ヱ門の事だろう。いろいろと噂がでているのは小平太も知っていた。
だが、滝夜叉丸がここまで心配をするという事は、相当酷いのかもしれない。
後で三木ヱ門を良く知っている文次郎に話に行こうと決めた。

滝夜叉丸の頬から一筋だけ涙が流れた。
本人は気が付いていない。
何故なら、滝夜叉丸が泣く事を誰よりも嫌っているからだ。

そんな滝夜叉丸の体を小平太は抱き締めた。


「大丈夫。滝は出来てるよ。田村の事を心配してる。それは何もしてないのとは違うよ」




だから、何時も通りの滝夜叉丸のままでいいんだよ。
自分に一生懸命な滝でいい。
他の人の為に自分に一生懸命になる滝のままでいて欲しい。



小平太の思いは滝夜叉丸には届いたのか定かではないが、滝夜叉丸が吹っ切れた、良い表情をしたので今の所は良しとした。

「よーし、委員会だ!行くぞ滝っ」
「え、えぇえっ?」
小平太は滝夜叉丸の手を握って裏山の奥へ走っていった。

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あきゅろす。
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