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妖怪パロ あやかしあやし
拾漆-鵺、戸惑いを覚え、風狸、笑って諭さず-

「ここが……」
少年は高い樹の上から遥か下を見下ろす。

メインの校舎に離れ、倉庫が二つ三つ。
訓練に使えそうな開けた場所とそれらをぐるりと囲う塀。
その周りは直ぐに森になっている。


「あの人は……」
少年は目をこらす。
妖怪の視力は人よりも良い。
特に木、風の力を持つ妖怪は殊更にだ。

木属性の少年は直ぐに目的の人物見つける。

留三郎は、包帯を巻いた足で縁側に立ち、長次と小平太の組み手を見ていた。

彼を見ると顔が綻んだ。











「ん?」
「どうしたの、三郎」
「あぁ、雷蔵あそこ。虎鶇だ」
「あれ?珍しいね」
「ちょっと言ってくる」
「うん」

三郎は立ち上がり、地面に降りる。
掌を拡げるとそこに息を吹き掛け一枚の羽衣を取り出した。

羽衣は意志があるかの様に三郎の周りを包むと、そのまま空へ上がる。
一見、風に布団が飛んでいくような風景だった。





「よ、作兵衛」
「やっぱり三郎さん?」

茶髪の少年は、瞬時に下から此方へやってきた三郎に名前を告げた。
三郎の体はまだ忍び装束を纏う11歳のままであり、作兵衛と呼ばれた彼が戸惑うのも無理はなかった。

何時もは今の自分より頭二つ分ほど高いのだから。


三郎は羽衣を持ちターンをして、作兵衛が見慣れた姿に戻ると、空中にいながらにして、脚を投げ座ってしまった。足を組んで落ち着く三郎を作兵衛は気にもせず、ただ留三郎をみやった。


「各地を点々と放浪している鵺の作兵衛さんが珍しいと雷蔵と話したが、食満先輩が目当てとはねぇ」

作兵衛は三郎の口からでた食満という言葉を自らの口で再びつむいだ。



けま せんぱい


「そう言えばこの間先輩が怪我をして帰って来たときに、善法寺先輩が風歩の術がかかっていたと聞いたが、まっさかお前とは思わなかった」

「解らねぇんです。あの人の目を見てたら、綺麗だと思う判明、引き込まれそうで怖い。でも気が付いたら体を支え、背に載せ足に負担が行かない様に足に風を纏わせてたんです。あの人も解らねぇが俺自身も解らなくなっちまったんです!」



こんなに人に話しかけた事も、襲わずに見逃すはおろか助けた事など一度も無かったというのに。




三郎は作兵衛の気持ちを理解した。
自分も良く似た症状に陥った事があったから直ぐに解った。



「ここに通って見れば解るよ」

三郎は笑って言い残すとふっと羽衣を持ったまま落下する。
途中で一回転をして小さな体になると地に着き此方に向かって手をふる。

部屋の中からは雷蔵が顔を出し、此方も同様に手をふってきた。




「そればっかりは自分で気づかないとな」
「?どしたの三郎」
「なんでもないよ雷蔵」
三郎の体は雷蔵にくっつく。

もう、甘えたなんだからと呟く雷蔵の声に耳を傾けながら、上であった風飛び仲間の事を思った。



「それはね、恋だよ」





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用語説明

風歩フウホの術…風を足に纏わせて歩みを早くしたりサポートしたりする術。

風飛びカザトビ…風を使い空を飛ぶ術

三郎の羽衣…三郎の変化を助けたり、風を纏わせたり出来ます。実は三郎に仕える式神で熊本出身。長さは1.6mで幅は34cmです。どの妖怪か解ったら凄い
あ、雷蔵は一人で風飛びできません。三郎にだっこです。

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あきゅろす。
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