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妖怪パロ あやかしあやし
とおといつつめ

「こんな所にいたっ!」
三木ヱ門が目を覚ますまで傍にいると言った左門を残して三人は四年長屋から三年長屋に戻ろうとしていた。

左門を見つけたときからずっと制服でいるのでまあ、あやしまれる事はほとんどないだろう。
四年には白い目で見られるかもしれないが、しったこっちゃない。
左門はまあ、最悪部屋についている辿水で帰ることができるだろう。
それに先ほど藤内が自慢の鈴で六年長屋にいるはずの作兵衛に還り際四年長屋による様に連絡していた。

その途中だったのだ、自分たちが極力かかわらないようにしている女、瑠璃花と会ったのは。

彼女は指をこちらに突きつけている。
その先には三之助に向いている。
どうやら彼を探していたらしい。
瑠璃花は三之助を見つけると、くるりと方向を変えた。

「小平太くーん!三之助くんいたよー!」

その声高の声と共に三之助の眉間に皺が寄る。
「本当か?おぉ三之助、戻ってたのかー、なら安心だな」
小平太は一言そう三之助に声をかけると、じゃあなと言って踵を返してしまった。

その態度に三之助の奥歯がぎりりと鳴った。
小平太が瑠璃花をつれて早々に視界から消えてしまう。
もちろん、それは喜ばしいことなので自分たちも何も言わない。
「明日の委員会は塹壕堀だからな!」
「わかりましたよ」
既に諦めの境地にいたっている、その暴君っぷりにため息がこぼれた。
遠くから彼女を呼ぶ声が聞こえる。
あぁ、たぶんあれは伊作と仙蔵の声だろう。

その声で呼んでやれば救われる人が一人いるのに。

今度こそ気配が遠くになる。
それから四年長屋で立ち止まったままの三人のうち、藤内が呟いた。

「三之助、滝夜叉丸に手繰火ついてる?」
「うんにゃ、でも多分大丈夫だと思うけど?」
三之助は藤内に急にそんなことを言われて驚愕する。
しかしすぐに滝夜叉丸の小さな今にも消えそうなかぼそい火を思い出して大丈夫だと答えた。

あんな今にも消えそうな火、忘れたくてもなかなか忘れられるはずもない。

「合流できそう?」
藤内が真剣な目で聞いた。
それに合わせて三之助からもお茶らけた気配が消え、数馬にも緊張が走る。

「近くに行けばすぐに辿れると思うけど」
アイツがどうかしたのか?と三之助は溢した。

「あの人もきっと三之助探してたんだよな」
「多分ね、俺委員会中だったし。まあ迷子なのはみんなだったんだけどな」
無自覚はこのさい置いておくとして、と藤内は言葉をつづけた。
嫌悪感を隠すことなど忘れて、仇であるとはっきり告げたも当然だった。


「あの女に、さっきの鬼の鎖がついてた」


その瞬間三之助からも数馬からも穏やかなものは全て吹き飛んでいった。
先ほどの鬼の鎖がついていた。
とても小さい欠片だったから、数馬や三之助は見逃してしまっていた。
会ったのも一瞬であったし、二人共極力彼女を視界に入れようとしなかったから。

だが数馬と三之助が藤内の前に立っていたのが藤内にとって逆に良かった。
彼ら二人という盾を介して彼は視てしまったのだ。
彼女の袂に黒い歪な鎖の破片があったことを。
それは直に砕けて砂になってしまったが、見間違いではないはずだ。

左門らと共に鬼の鎖を断ち切ってから時間的にもちょうどよかった。
全てが彼女に疑いを持てと言っていた。
彼女は術師である、と。

正直、くのいちより厄介だった。

「三木先輩を狙ってやってたなら次は・・・」
そう彼女は今の今まで三之助を探していたのだ。
三之助の所属する体育委員会と共に。

瑠璃花が三木ヱ門を襲ったとしたなら理由は一つだろう。
彼女を好きになっていない人間だ、ということ。
そして体育委員会でそれに当てはまるのは、三之助を覗いて一人。

滝夜叉丸だ。

藤内の言葉が終わらないうちに、三之助が長屋の廊下から地面に飛び降りた。

「三之助!」
また、迷子になるかもしれないよ、と数馬は猛進する彼に静止の言葉をかける。
しかしそんな事で走りだした火車を止めることはできない。

先ほど三之助は滝夜叉丸の気配はたぐれるといっていた。
しかし、彼の事だから滝夜叉丸の気配を手繰れる位置にまで行けるかが分からない。
滝夜叉丸と合流する前に迷子になられた、それこそ作兵衛の心労がたまるだけだ。

留三郎が精神的に参っている今、それ以外の心配はあまり掛けさせたくはない。
「じゃあ僕も一緒に・・・!」
「お前遅ぇ!」

数馬が名乗りを上げるが、三之助に一蹴されてしまう。
確かに足は速くないけど、火車と比べられたらみんな遅いと思う。と数馬は肩を落とす。
いざ走りだす腕を藤内が取った。
その腕は焼けるほどにあつい。

見た目とは反対に彼の中に迸る激情。
この男を飄々とした水、月のようだと比喩したのはどの後輩であったか。
もしかしたら先輩であったかもしれない。
だが、それらは違うと藤内は思う。
三之助は仲間に義理に人情に熱い男だ。
ただそれが顔に出ないだけで。
良く似た先輩を持っているおかげか、それとも三之助のお陰でその先輩を理解できたのか。
どちらにせよ、この男は見た目よりずっと激情家で火のような男なのだ。

だから、藤内は声を掛けた。

「何があっても、「仲間」だからな。俺たちは」

その言葉に数馬は三之助のやろうとしている事を悟り、口を真一文字に三之助をみやった。
彼はそんな二人にきょとんとしてから、笑った。

「おぅ」
「先輩怪我してたらまず、僕らの部屋にきてね」
「分かった」

それから藤内の腕を振り払うと、三之助は拳を突き出す。
藤内と数馬の拳と合わさり小さな音がした。

「迷子になるなよ!」

走り去りながら炎に身を包む三之助に藤内は叫んだ。
彼はいつもの顔で振りかえった。
その頬には火の文字。黄色と紫と赤を織りこんだ飾り紐が背中で揺れていた。

「大丈夫、俺を一番に見つけてくれんのいっつも滝だから!」





「自覚してるんだか、してないんだか」


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