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妖怪パロ あやかしあやし
31000HIT 李さまリク 先輩馬鹿でごめんなさい
「もう、なにやってたの」
医務室で伊作は目の前でだんまりを決め込む友人に嘆息した。

腕見せて、という言葉にも黙ったまま。
行動でこちらの言葉が聞こえている事は示してくれたが。

此方から見えるのは頭巾が外された黒い髪の毛だけだ。
消毒薬の感想も言わず、唯ひたすら下を向いている。

さて、これは作兵衛絡みか。
六年間友人を務め、一年前からはかなり親しくならざるを得なくなってしまった伊作はそうあたりを付けた。

そしてそれは見事に的中する。

隣で薬を煎じていた数馬が窓の外を見たからである。

「あ、作ちゃんと池田だ」
また言い合ってるー、と煎じの手を止めた数馬。
その言葉を聞いて目の前の黒い物体が勢いよく跳ねた。

唇を噛みしめ、目を潤ませ、不安そうに窓の外を見つめる彼は情けないにもほどがある。
伊作は数馬が振りかえる前に眼前の友、留三郎の頭を叩き落とした。

「痛い・・・」
ぽつりと抗議の声を上げた留三郎を伊作は無視する。
数馬が振り向くと留三郎は先程と同じ格好であった。

「まったく、留さん。それで怪我したわけ?」
「だって・・・」
改めて留三郎の腕に再度、綿を消毒液につけたものを当てた。
こびりついた血がぬぐい落されていく。
留三郎と恋仲である彼と仲が良いからか、数馬もこちらにやってくる。

「どうしたんですか?伊作先輩が食満先輩に呆れるなんて珍しい」
長い兎の耳をぴくぴくと動かして数馬は会話に乱入してきた。
確かに留三郎は伊作に呆れられるという事はほとんどない。

文次郎と留三郎の喧嘩は伊作は激昂するし、後輩と仲良くしていても笑っているだけだ。

「今回ばっかりはねぇ。流石に呆れもするさ。実習中にまで考え事だもの」
どうたら、実習中に考え事をして、腕に怪我を負ったらしい。
まあそんなに酷い傷ではないあたりが幸いと言うべきか。
伊作は血で汚れた綿を捨てると止血も終わっていた傷口に薬布を乗せて包帯を巻いていく。
その手際は流石というべきか実に淀みがない。

「実習中に作兵衛の事考えてたんでしょ。留さんは」
はい終り。と包帯の下にある怪我を強く叩くと伊作は机にある使用名簿に記入を始める。

「いてぇよ、伊作・・・」
「残念ながら、心の傷に効く薬は置いてません」
伊作はぴしゃりと言い放つ。
そして数馬がいるにも関わらず、早く話したらいいと目線で訴えてくる。

その視線は怪我を隠した時と同じもので、留三郎は小さい声で話だした。

「最近、なんか俺に距離を置いてるのかなって・・・」

「いや、うん距離を置いてるのは知ってるんだけど・・・」

自分でもどうやって言ったらいいのか分からないのかさまざまな言葉が入り乱れる。
しかしながら、最後の一言で伊作も数馬も全てを納得してしまった。


「池田が羨ましい」


留三郎のその言葉に全てが詰まっていた。
とどのつまり、留三郎は不安なのだ。

作兵衛は留三郎を尊敬していて、彼を立てる事や尊敬の念を忘れたりしない。
恋仲になったって敬語が外れる事も、さん付も変わることがない。
そんな作兵衛が池田ーひとつ下の池田三郎次が相手になると豹変する。
乱暴な言葉使いに偉そうな態度、敬語なんてあったもんじゃない殴り合いの喧嘩。
留三郎も文次郎という同じ喧嘩仲間がいるから良く分かっていた。

そうやって自分の全てをさらけ出せるのは「対等」な相手なのだと。

作兵衛と「対等」になりたい留三郎にとって三郎次のその場所はまさに望んだ場所であった。


「ずるい・・・池田はずるい」


「留さん、それは・・・」
無いものねだりだよと伊作は思ったが、口から出すことはできなかった。
人間というものは誰よりも欲深だということはここ数年で嫌というほど理解していた。
そして、そんな思いが自分の式神である作兵衛に伝わらないように必死に探してきていたのだろう。

「数馬、一つ貸しで良いかい?」
「うーん・・・まあしょうがないですね。あまり酷いことしないでくださいよ?」
そういうと数馬は医務室の入口へと向かう。
そして伊作はというと、留三郎の胸に掌底を喰らわせる。

一瞬息が止まるような感覚に襲われるが、特に変わった事はなかった。

「伊作?」
何をしたんだ、と眼で訴え掛けるが見てれば分かるよとばかりに伊作は人差し指を唇に添えた。
そして入口を別の手で指さす。

「数馬!」
「作ちゃん・・・」
「先輩っ・・・先輩どうかしたのかっ!?」
血相を変えて医務室に飛びこんでくるのは、忍装束すら忘れた鵺であった。

「落ち着いて作ちゃん。大丈夫だから」
「落ち着いていられるかってんだ!あの人との糸が切れたってんだぞ!」

何時もは穏やかに接するはずの数馬にも喰ってかかる作兵衛を留三郎は医務室の奥でじっとみていた。

「実はね作ちゃん。先輩実習中に大怪我しちゃって・・・」
「なっ!」
深刻そうな顔をする数馬に作兵衛の顔は徐々に強張っていく。

「怪我自体は大したことないんだけどね、その辺にいた病鬼がはいりこんじゃったみたいなの」
だから作兵衛との連絡も取れなくなってる、と数馬は深刻そうに話す。

当人はいたって元気で伊作の隣でぴんぴんしているのだが。

「でね、裏々々山の頂上に、向こうに行ける場所あるじゃない」
「あぁ、あそこの溜まり場か」
こちら側にはどこかしらあちら側とつながっていて、氣がよく集まって時にあちら側への通路となる場所がある。
いわゆる霊場などと言われる場所だ。
あちら側への路を繋ぐ氣が大量にあるので、時々何も知らない子供などが誤って進んでしまう事もある。
これが神隠しと呼ばれているのようなのだが。

「あの辺りに榊が一本生えてたでしょう?」
「それが必要なのか?」
すぐさま踵を返そうとする作兵衛を数馬が止める。
伊作はそれを見ると手で影を作る。
親指と薬指、小指を合わせ残りの二本をずらしながら立たせる。
出来た兎の影はすぐに動きだし壁を伝って窓の桟で黒い小さな兎となる。
そしてすぐにそこから飛びはねていた。

「それだけじゃないんだ。あと珊瑚の卵と・・・」
「なんだ!」
「言いにくいんだけど・・・・」
「うっせえ早くしろ!」
「・・・・・・・作ちゃんの・・・鵺の、正確には先輩の式神である君の血だ」

留三郎は数馬が言った言葉に目を剥いた。
そんなもの集まらないだろう、と。
しかし作兵衛は数馬の言葉に真剣に頷いている。

「とりあえず、珊瑚の卵は誰か場所知らないかこっちでみんなに聞いてみる」
「わーった」
「だから作ちゃんは、榊をお願い」
「よしきた。一番氣が乗ってて若い新芽を持ってくりゃいいんだな」
「うん、二三枚あれば十分だから」
そこまで聞くと鵺は目にもとまらぬ速さで学園を出て行った。
出門表を持って追いかけてくる小松田さんも、今の鵺には関係ない。
なにせ彼には作兵衛が視えていないのだから。

留三郎は伊作たちのしたい事が分からず、そのまま目を瞬かせるだけだった。

「俺、別に全然平気だぞ?」
「うん。留さんはさ、作兵衛がどれだけ留さんの事好きか知らないんだよ」
伊作は笑う。

「作兵衛がどれだけ留さんの為に出来るかその目に焼きつけなよ」
「作ちゃんならきっとどんなことでも、やると思いますけどねー」

「だよねー」
「なんせ」

策士二人の声が重なった。

「留さん馬鹿だから」
「先輩馬鹿だから」



数刻もしない間に作兵衛は榊を持って学園に戻ってきていた。

「うっわ、この速さ、新記録じゃね?」
「私たち二人を風飛びで探し出すより早いだろ」

その時、留三郎はと言えば伊作と迷子二人を連れて物影から作兵衛をじっと観察していた。

「そうなのか?」
留三郎は何時も探されている二人に質問を投げかけた。
ついでに二人が一緒にいる理由は、朧車と火車の特殊能力によって作兵衛から見つけられにくくするためだ。
もちろん彼らの姿は伊作の影によって闇と一体化し気づかれる事はない。

「そうですよ。間違いなく私たち探すより早いです」
「あ、ついでに俺らが二人一緒にいた時の話っすからね」
作兵衛の必至さを力説するうちにも作兵衛は生徒の間を縫って医務室に近づく。

「作兵衛」
「孫兵?」
そんな彼に孫兵と藤内が声をかける。
「聞いたよ、大変だったな。珊瑚なんだが二年の池田が持っているそうだ」
「丁度持ってる珊瑚に卵が入ってたって。今氣を貯めてもらってるよ」
「わかった、池田だな」
瞬時に踵を返し、それから数馬に渡しといてくれと藤内に手に持った榊をおしつけた。

風と共に走りさった鵺を見てぽつりと呟いた。
「何時もなら池田の名前を聞いた瞬間眉間にしわが寄るんだがな」
「頭の中食満先輩で一杯一杯だそうですよー」
孫兵と藤内の二人もまた影の中にはいり彼を追う事にした。

鵺の風をもってすれば学園内のどこかにいる三郎次を探すことなど容易いものだ。
見知った青い装束を見つけて怒鳴りつけた。

「池田!」
「はい?あぁ・・・」
コレですか?そう言って作兵衛から声をかけられた三郎次は慌てる事もなく懐から淡く輝る珊瑚を取り出した。
三郎次の氣を入れてあるからなのか何色もの色が入り乱れている。

「コレ、卵かぁ?」
作兵衛が三郎次ににじりよった。
同時に影で作兵衛をみる留三郎の眉間にも皺がよった。

「壊されちゃたまんないから、中に入ってますよ。刺激すりゃ中から出します」
そうか、と作兵衛はさりげない嫌味にも気にしないし、疑いもしない。
それを受け取ろうと手を伸ばすと、三郎次は手を引っ込めた。

「んだよ」
「・・・土下座」
「はぁ?」
「土下座したらあげます」
三郎次は例え演技でも作兵衛を見下ろせるのがうれしいのか嘲笑している。
いつもなら此処でふざけるなと口論になって拳が飛びたすはずだった。

留三郎もそんな所だろうと思っていた。
自分だってたとえそんな状況だとしても文次郎に土下座なんてしたくない。

俯いて溜息をついた留三郎は三郎次の大声で顔を上げた。

「何やってんだよ!アンタ!」
「んだよ、土下座したらくれんだろうが」
「だからって!」

土に片ひざをつけたまま、三郎次を見上げていた作兵衛は言い切った。


「俺の意地と先輩なんて比べくもねえ」


その言葉が作兵衛の強さを示して、その動作が留三郎への想いを示していた。

自らの意地など主の為に軽く放り出した作兵衛を見て三郎次は唇をかみしめる。
そしてそのまま両膝をつけようとする前に、眼前にそれを突き出した。

そんな彼を見ていたくなかったからだ。
留三郎の為なら何だってする彼をこれ以上見たくなかったから。
だから黙って押しつけて、走り去って行った。

「バーカバーカ!富松の馬鹿ーーーーー!!」
三郎次の叫び声は残念ながら作兵衛の耳に入ることはなかった。

珊瑚を握りしめた作兵衛に数馬が寄ってくる。
「作ちゃん!」
「おう、数馬!これでいいんだよな!」
渡された珊瑚を見た。本当はこれに卵なんて入ってないのだが、それは気にしない。
なにせ必要だったのは、留三郎の為に三郎次に土下座する彼自身だったのだから。

「あとは、俺の血だっけか」
これで留三郎が治るかと思うと気も落ち着いたのか、少しだけ強張った顔を緩めた。
それから自らの爪をのばして肘のあたりに付きたてた。
そのまま手首のあたりまで引き抜くつもりだ。
舌打ちをして眉を寄せるあたり、痛いのだろう。
それはそうだ、いつもは風すら切り裂く爪だ。痛いはずがない。

あれ痛い。絶対痛い。

「駄目だーーー!!」
勢いを付けて、ざっくりという言葉が似合う速さで爪を引こうする作兵衛の動作は留三郎によって止められた。
叫びながら作兵衛の胸に飛び込んできた彼によって。

「と、留三郎さん!?」
へ、なんで!?怪我してんじゃなかったの?と目を白黒させる作兵衛の周りに同級生がぞろぞろと現れる。

彼に尻餅をつかせて胸でごめんと謝る留三郎とそれを見ながら笑っている同級生と伊作。

「お前らっ、ハメやがったなぁっ!」
作兵衛の怒鳴り声が一陣の旋風を呼ぶ。
その勢いにそれぞれ小さな悲鳴を上げて同級生と伊作は逃げだした。
作兵衛は胸に収まってる留三郎によって動けない。


「待ちやがれっ!ごるぁっ!!」
「あははー!」
未だ飛んでくる風を避けながら同級生は叫んだ。
全員笑って、大きな声で、息を揃えて。


「先輩を泣かす作兵衛が悪い!この先輩馬鹿!」

鵺の顔が日の入りに負けないくらい真赤だったのは言うまでもない。
******
李さま。こんな感じでよろしかったでしょうか・
なにやら不完全燃焼気味でもあるのですが・・・。
話が長くなってしまったので場面がほいほい変わって読みにくいかもです・・・。

こんなものでよろしかったら、どうぞお納めください!


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あきゅろす。
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