妖怪パロ あやかしあやし 玖拾弐 白児、少年と友達になる *差別用語の白痴を文章中で使っておりますが、時代を考慮した上での 表現技法の一端としてのことです。 これを推奨するような意図は全くありません。 また別の少年はじっと親の行為を見ていた。 神棚に供え者を置いて必死に祈る。 隣には仲が良い青年の姿もみえる。 しばらくすると親と青年が消えて次は別の男。 数時間おきに入れ替わり、立ち替わり。 それは四六時中行われていた。 少年はそう思っていた。 なぜなら少年が何時その神棚がある場所に行ってもそこには誰かがいたからだ。 少年はその神棚がある場所をとても好んでいた。 何というか、気分的に落ち着くからだった。 生まれたばかりの時、家にいるどの馬にも好かれなかった。 近づけば近づくほど馬が異常に脅え後ずさりする。 十に近くなった今ではそれもなくなったが、それでも新しく入った馬は少年に懐くまでに時間がかかる。 大好きな馬から嫌われる。 それは少年にとってとても辛いことで、小さい頃馬から逃げられた時や振り落とされた時はいつも此処に来ていた。 ここが心地よいというその本能が、一体なんなのか、知りもせずに。 恐くなって嫌になって、なんども諦めようとしたときもあった。 でも、今まで頑張ってこれたのは、少年が一人の少年に会っていたからだ。 少年の村の裏方から歩いて数刻の大きな松の木の下。 山の麓にある村を一望できる高台に少年の友達がいた。 少年の友達は何時も本を持ち歩いている。 そしてこの松の木の下でずっと本を読んでいる。 少年は馬に振り落とされて、それでも親たちが頑張れと言った時に一度家出した。 しんどかった。 馬も辛そうにしていて、自分もそんな馬に近づくのが辛くて。 それでも親は馬借の息子として一生懸命で。 皆頑張って、一生懸命なのに、出来ない事があったのだ。 もうやりたくない、と泣いた。 みんなも俺も馬も、みんな辛いのになんでやる必要があるんだと叫んだ。 何で馬借の家に生まれたのに馬に嫌われなくちゃならないんだ、と嘆いた。 走って走って、でも小さな少年の体では高台の松の木までが精一杯で。 そんな時に友達にであった。 じっとこちらを向いている。 「こんにちは。どうして泣いているの」 少年は目を瞬かせた。 少年は勢いを削がれてしまって逆に訪ねた。 「そういう君はここで何をしているの?」 「勉強」 え゛と少年は苦い顔をした。 「なんで勉強してるの?大変じゃないの?」 俺は勉強大嫌いだ、と少年は呟いた。 友達はさも当たり前のように返した。 「僕は白痴だから。人の倍頑張らないといけないから」 沈黙が下りた。 友達は、少年もまたこいつもみんなと同じように笑うのだろうと思っていた。 だが、一向に笑われる事はなかった。 少年を見ると、彼は至極真剣な顔で呟いた。 「あのさ・・・白痴って・・・ナニ?」 今度は友達が目を瞬かせる番だった。 友達はなんでそんな事も知らないんだと思いながらも説明した。 「知恵遅れってことだよ。みんながすぐ出来る事が出来なかったり、理解できなかったりするんだ。ようするに馬鹿ってこと」 思っていた事を素直に述べた。 事実、友達も自分がそんな事になる前はそういう風に見てきたのだから。 初対面の子にはそうやってきちんと自分が白痴であると言ってきた。 そうするとみんな自分を卑下の対象にする。 それでよかった。 仲良くなってから、そうされるより、仲良くなる前からそうなってた方がずっと楽だから。 「え?それって、大変だよね。一人で大丈夫なの?」 少年は心配そうに友達を見た。 友達はきょとんとしたまま動かなかった。 大人たちと同じ事を言った。 可哀そう、大変でしょう、という蔑みと同情の目。 でも、少年は違った。心配したあと少年は笑ったのだ。 「あ、でも一人でこんな所にいるから平気か!すごいんだな!」 「すご・・・い?僕が?」 「うん。だってそうじゃない?知恵遅れなら一人でこんな所来れないだろ?」 「まあ、そうだろうね」 他に同じような子を見た事はないが、確かに自分と同じ様な子であれば親がつきっきりになるだろう。 もしくは自分と同じように、捨てられるか。だ。 でも一人で大丈夫なほど強くもなかった。 だから必至で勉強をする。 自分の命を助けてくれた人に言われたからだった。 「普通じゃなくて嫌われるなら、普通になりゃぁいい」 お前は時間が掛るだけで出来る事も他の子と一緒だと。 だったら、倍頑張ればいいだけじゃないか、と。 頑張れば頑張った分だけお前の力になる、と。 「だったら凄いじゃん!俺なんかよりずっと!」 友達は今までで初めて自分の物差しで自分を計ってくれた子に出会ったのだ。 そして少年は呟いた。 自分は馬借なのに馬に嫌われるということ。 全部にしんどくなって逃げてきたということ。 でも、一人で悲しくなってきたから君がいて良かったということも。 だから友達も話した。 「みんながいてくれるって・・・いいよな」 自分の白痴は後天的だという事。 そしてそれは親が原因だということ。 それから、その所為で親に捨てられたということ。 だから必至で自分の悪いところを直してくれようとしてくれる親がうらやましいことも。 「 !」 「佐吉!い組だって!さっすがー!」 「いやお前自分の組確認したのかよ!」 「あ、忘れてた」 「もう!本当馬鹿だな!」 「あははー!」 どんなに悪態を叩いても、お互いを嫌いと蔑んでも。 それでもその手は離れない。 昔は、みんなに認められたいっていうだけだった。 でもね、今は。 お前にね、嫌われたくないんだよ。 ねえ、お前は僕が人じゃなくても「友達」でいてくれる? 先に教室に行こうとする彼の手を強く握りしめた。 [*前へ][次へ#] |