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妖怪パロ あやかしあやし
とおとふたつめ

「だから、こうして、こうなるの!」
「あぁ、なるほど」

会計室ではいつものどなり声は響かず、穏やかな算盤の弾き音がする。

そこには天女である瑠璃花と会計委員たちの姿。
佐吉は瑠璃花から団蔵の書いた字を教え、団蔵には書き直しをさせている。

文次郎はそれをほほえましく見ている。
左門は大きな口を珍しく閉じて自分の分を終わらせようと他の事を排除する。

そして三木ヱ門はというと。

「団蔵、お前もそろそろ丁寧な字を書くように心がけろ」
「えぇー?」
先輩の言葉に団蔵は嫌な顔をする。
団蔵のいやそうな顔に瑠璃花が直に反応した。

「私が読むから、そんなに強要しなくてもいいじゃない。ね?」
団蔵君はもともと字が苦手なんだから。

そう瑠璃花は団蔵を甘やかす。
同じように佐吉も甘やかす。
何人もの下級生を甘やかして、成長させない。

それでは困るのだこの世界では。
この時代では。

成長しきれなければ。
忍として成功できなければ、もしくはそれなりの忍術の心得を覚えて成長しなければ。

今のまま微温湯につかってばかりいたら、彼らに待つのは死だ。

三木ヱ門はそう思う。
正確には思っていた。
だから、自分の為ではなく相手の事を成長させるための言動を吐く。

半分は自分の為。
そう、瑠璃花に嫌われたいがため。
でもそれをしてしまえばつまり、文次郎に嫌われることになる。
こんな天女に負抜けになっている彼でも、嫌われることは避けたかった。

その葛藤が此処にいる三木ヱ門を作りあげた。
天女の前で良い顔をして笑って過ごす。
瑠璃花を凄いを褒めて、彼女を優先させた。
そのおかげか、文次郎からの信頼も以前よりずっと上がってきた。

彼に嫌われていない、信頼を寄せられている、と嬉しそうに笑う。

だが。

自分が間違っていると非を認めて謝るのはこの人には難しい。
そして、自分が間違ってもいないのに非を認めることはもっと難しい。

出来るのは自分が正義だと言い放って正面切って闘うか、相手に屈伏するかである。

彼の嘔吐症は治っていない。
その手首が一回り細くなったのを何人が知っている?
鉄砲を抱えるべき腕の肉がそげ落ちたのを何人が知っている?


「でも、貴方がいつもいるわけじゃないではないですか」

不意に放たれた一言にその場にいた人間はそちらに首を動かした。
最近会計委員で滅多に口数のすくない左門であった。

その言葉に団蔵も佐吉もはっとする。

「そうだよね迷惑もかかっちゃうし」
「そうだぞ団蔵。いつまでも瑠璃花さんを此処に置いておけるわけでもないし」

そういって残念そうな顔をする二人に、瑠璃花はじゃあ明日も、と言った言葉に一年生は顔を輝かせた。

「いや、明日は作法の手伝いがあったろう」

委員長が一声掛ける。
その言葉に瑠璃花があ、と頬を掻いた。
「いや、でも、うーんと・・・時間調節すればどうにか」
「いやいや、そこまでしてもらうわけには」
こちらは確かに助かりますが、貴方もお疲れになるでしょう、と文次郎はやんわりと瑠璃花の申し出を断った。

その断った事にたいして、左門が目を瞬いた。
こいつは欲望の塊ではなかったと。
が、次の瞬間その尊敬の念は彼方に飛んでいった。

「それに明日作法に瑠璃花がいなかったら俺は死ぬぞ」

つまりは作法の委員長が怖いらしいかった。


その言葉を聞いて左門は敵は目の前の人間だけではなかったと頭を抱えた。

「じゃあ団蔵。お前今度字を教えて貰えよ」
左門はそう言って、自分の分を終わらせた帳簿を委員長の前に叩きつけた。

「私、用事があるので先に失礼します」
「お、おぉ・・・迷子になるなよ!おい、三木ヱ門」
左門が一人で部屋を出ていこうとするのをみて文次郎は急いで三木ヱ門に声を掛けた。


「あ、はい」


思いの他あっさりと引き受けた。
いつもなら、いつもなら。
いつもなら・・・・いつもの三木ヱ門なら、どうしたのだろう。



三木ヱ門の行動に疑問を持ちながらも、その疑問を確固たるもので答えることができなかった。


その場には団蔵に字を教えることが決定したらしい瑠璃花だけが神妙な面持ちでいた。



「団蔵お前っ、母親に字習わなかったのかよ!」
「習ったよ!習ったけどさぁ!」

「え?文字ってお母さんが教えてくれるの?」

「へ?普通そうじゃないんですか?」
「ふぅん・・・」


「・・・あ、えぇ、えぇとね!未来だといろいろと勝手が違うから、驚いただけだよ!」


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あきゅろす。
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