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妖怪パロ あやかしあやし
27000HIT 柘榴様リク 変わった人たち。 とまけまと留守番組

戻ってきた鵺はなんだかいつもよりたくましく見えました。

それに気がついたのは誰だったか。

「留三郎」
「ん?長次?どうかしたか?」

長次は留三郎に小さな声で呟いた。
先ほど帰ってきた彼ら。
三木ヱ門の村にいくといっていた文次郎らと合流し迷子を連れて戻ってきたばかりだ。

そんな彼に湯を共にしようと保健室で誘われて、伊作と長次と留三郎とで風呂にきたところである。
制服を脱ごうとしていた彼に長次が声を掛けたのだ。

「それは・・・」
長次が指をさすのは留三郎の左胸。心の臓を指している。
長次が言いたいのは、その上に刻みこまれた、黒い月。

「長次、どうしたのさ・・・って留さん・・・これはない」
長次と留三郎が黙ったままなので、伊作が二人を催促しに来たのだ。
留三郎の左胸を見て、目を伏せて長次を連れて先に風呂へといってしまった。

「って、なにが!?なんなんだよ!!」
伊作に呆れられ、長次にも黙ったまま通り過ぎられ、留三郎はあわてだす。
急いで前掛けを脱ぎはらい、二人を追いかける。
そんな留三郎の左胸には、彼との契りの証があった。

「僕、留さん実は狙ってたのになぁ」
掛け湯をしていると、湯船につかっている伊作からそんな呟きがでる。
すぐに熱のこもった、「男」の視線で射抜かれて留三郎は驚きうっかり手で胸を隠してしまう。

「あぁ、大丈夫大丈夫、その胸みたら萎えちゃったから安心して」
「いつもの」伊作に戻った彼にまだ少し不安を覚えながら、長次を挟んで伊作の横につかる。

「胸・・・?」
「まさか鵺さんにかすめ取られちゃうとは思わなかったなぁ」
「なっ!え?へ!?」
伊作から思いがけない言葉が出てきて、留三郎は慌てる。
伊作も長次も人間ではないという事は、感覚で分かっていた。
左胸が人間とそれでない「ヒトデナシ」を教えてくれる。
しかし、何故伊作が自分の事をそこまで知っているのかが気になった。

「全部、ソレが教えてくれる」
長次が指さすのは胸。そこにある黒い月。
刺青のように心の臓にうつる紋が教えてくれるというのである。
流石にそんなことまでは知らずに留三郎は首をかしげている。

「参三日月紋は鵺の紋だからね。留さんの近くにいる鵺は作兵衛ぐらいでしょう?」
ここ数年で培った人や物から情報を得る力と、妖怪の知識とが伊作と長次にそれを分からせた。
この紋は力のないものには視ることが出来ないと言われていたので、普通に風呂に入りにきた留三郎。
視える人間にばれるとこうも恥ずかしいのか、と口を湯でかくしてしまう。

「妖怪の契約の方法は様々、だけど根底にある約束事は一緒だ」
「術師の体の何処かに刺青、も同じだ」
伊作と長次がそう言った。
長次が静かに目を閉じて、湯船の温かさに気を休めると頬の傷が開く。

「うわっ!」
流石にこういう事に慣れていない留三郎は驚き、体を湯船から半分出す。
伊作が何事もなかったかのようにしているので、留三郎は再び顔を赤くして湯船に戻る。
「長次は百目鬼だからね。しかたないよ」
「すまん、気を抜くとこうなる」
仙蔵から少しばかり力を返してもらった時から一部の瞳が開くようになった。
無意識的に回りを見回し情報を得ようとする彼の瞳は気を抜くとすぐに開くのだ。
頬を掌でなでると瞳は閉じ、傷に戻る。
同時に頬ではなく掌の瞳がひらくが、そちらは伊作の方にある瞳だったのでどうやら隠す気はないようだ。

「妖ってのは、傍面倒な生き物だよ?いいの、留さん。鵺なんかで」
きっと留さんは優しいから辛いよ?と伊作は彼を諭す。
そして心の中で、それでももう戻れないけれど、と呟いた。

「・・・・・・うん」
留三郎は静かに頷いた。
「うん」という留三郎は嘘をつかない。
あぁ、やら分かったなど、堅い口調の時は己に気を張っているため嘘の可能性もある。
だが、一年のころから「うん」と呟いた彼は心底気を抜いていて、心からそのことに対して是といっている。
それを伊作は数年間の付き合い故に知っていた。

「もう、戻れない。戻る気も、ない」
静かにはっきりと告げたその言葉は、確かに何かとの決別の言葉だった。

風呂からあがると、留三郎は妙な感覚に襲われる。
これは、学園に足を踏み入れた時と同じ感覚だ。
ということは、多分綾部の結界だろうと、留三郎はあたりを見回した。
近場で兵助の膝に身を寄せている喜八郎を見つける。

そのすぐそばに数馬と藤内もいたので、伊作が数馬に事情を聴いている。
「どうしたの?数馬。喜八郎も結界なんてはっちゃって・・・」
「あぁ、伊作せんぱい・・・あれ・・・」
喜八郎は兵助の膝を借りながら眠たそうにしているが、自身の術を止めることはしまいと目をこすっている。
多分構築されているのは、棒状のものがいくつも折り重なっているところを見ると、檻城の合歓であろう。

「喜八郎?眠いなら寝てもいいよ?」
兵助が彼の銀髪を優しくなでる。
「いえ・・・なんででしょう。心臓はうるさいんですけど、眠くなるんです」
喜八郎はどうやら言葉の内容からするに羞恥やら気恥しさやらでどきどきしているらしい。
だが、顔は明らかに眠そうでそんな事は一切かんじられない。

どこがどきどきしてんの!?

喜八郎の顔を見て呆れた伊作と留三郎に兵助が苦笑する。
「これでも本当にどきどきしてるんですよ。顔にでないだけです」
「あ、そ、そうなの」
「っていうか、この結界はどうしたんだ」
「んぅ・・・はぃ・・・えぇと・・・」
寝るか寝ないかの瀬戸際でも術をしっかり保っている彼は凄いと思う。
通常、長壁姫の術は一度かけると、寝ていてもなかなか崩れないものだ。
しかしながら、破損した箇所があればそこに氣をあてって修復する必要性がある。
城と同じである。

「アレですよ、アレ」
眠そうな喜八郎に代わってこ答えたのは彼の後輩でもある藤内であった。
藤内の横にいる数馬も孫兵も同様に庭の先を指さす。
長次と伊作と留三郎が、そちらに顔を向けるとそこには、どこかで見たような光景があった。

「んなへなちょこ水鉄砲なぞあたるかよ!」
「クソ富松!ちょこまかと!!」

三人が同様にあぁ・・・と溜息をついた。

どうやら、年下の犬猿組が喧嘩をしているらしい。

「作兵衛、契約したでしょう?」
「池田ってば、それが気に食わなかったらしくて・・・」
「適うわけないのに喧嘩をふっかけて現在にいたります」

孫兵、藤内、数馬の言い分を聞き伊作と長次は納得する。
約一名、ここにもばれてる!と赤面していたが。

三人の目が早く止めてくれ、と言っていたので留三郎は目を閉じて集中をする。
少し気を向ければ感じ取れる作兵衛との絆。
線のような、糸のようなそれをより合わせて、太くしていく。
それから、もうやめろ、と思念する。
それは酷く簡単な事で、呼吸のように出来た。
今までも、それこそ委員会で阿吽の呼吸を見せていた二人には至極容易な作業であった。

しかしそれは、作兵衛に届く前にぷつりと切れてしまう。
留三郎のこめかみに皺がよった。
口元がひきつっている。

「と、留さんっ?」
「も、もちついてくださいぃっ!」
伊作と数馬の保健室組が静止をかけるが、そんなことぐらいでは彼は止まらない。
何時でも繋がるはずの心の道を、意識の共有を、無意識とはいえ作兵衛の方から切ったのだ。

出したのは二枚の札。
藤と萩。蔓性の植物は、のびて喧嘩を辞めない後輩二人捕える。
通常ならば絞め殺す事も可能なのだが、だが、そこは流石に先輩、しっかりと手加減する事は忘れなかった。

「へ?」
「あ?」

相手にばかり気がいっていた二人は、いつの間にか腕をとられて動けなくなってしまう。
そしてそのまま自分たちの近くまで寄せられていた。
留三郎の笑顔を認識した作兵衛は正座をして、びくびくしている。
尻尾の蛇は完全に丸まり、耳も伏せられている。

「俺より池田の方が良いのか?作兵衛?」

満面の笑みで伝えられた言葉に三郎次は自分の背中に悪寒を感じる。
そして作兵衛は聞いた途端、立ちあがる。
その顔は悪いが後輩に見せられたもんじゃない。

そんなことねぇっす!先輩ぃー!と半泣きの作兵衛は留三郎に縋る。
もちろん、そんなことぐらい分かっている。
縋る作兵衛を撫でながら、冗談だと呟いてどうにか作兵衛をひっぺがす。

半分な、と心の中だけで付けたして。

なあ、あれ誰?富松じゃなくね?
いや間違いなく富松先輩だよ。
と三郎次と彼を迎えに来た左近が話しているのを背中で聞きながら留三郎は伊作と長次を連れだって自室へと戻ろうとしていた。


長屋に向かう廊下をつたうと、庭から小さな悪鬼たちが群がってくる。
留三郎はそれに身構える。
が、伊作は欠伸をひとつしたまま、彼らを追い払う。
欠伸をした口を覆う手と逆側にある手が大きな動作に隠れて、動いているのを留三郎は見逃さなかった。
月の光で出来た影が、蛇のようにむねり悪鬼たちを縛りあげ、学園の外に放りだす。
伊作はそれを指先ひとつでやってのけたのだ。

留三郎は、自分と彼らとの間にある力の差を今はっきりと眼にしたのだった。

「今のは?」
「よく学園にお忍びにくる悪鬼。悪さっていう悪さもしないからね、とりあえず投げ捨てておいたよ」
伊作の言葉があれくらいお茶の子さいさいだと物語っていた。
黙ったまま眉一つも動かさない長次にいたっても同じようなところだろう。

「留さん、あれくらいは出来るようにならなきゃね」
伊作は固まったままの留三郎の横を笑いながら通りすぎる。
静かに早く、そして確実に。
誰にも悟られぬように動いてこそ闇のもの。

「彼らと違って僕らは見えるんだから」
そうだ、そうだった。そうなのだ。
人間の体である留三郎は一般の視えない人間でも見ることができる。
悪鬼やら霊ひとつやらで動じていてはただの挙動不審人物になりかねないのだ。

その言葉の先を勘ぐればつまり、作兵衛や此処に来ている妖怪たちはみな其れが出来ているという事であろう。
自分の遅れをはっきりと自覚して留三郎は決意を新たにした。

そう、強くならなければならない。
自分の為に、そして作兵衛のために。

肌身離さず持ち歩いている、妖怪の世界からもってきた花札をそっと服の上から握りしめた。


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あきゅろす。
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